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珈琲は苦く、ゆず茶は香る。
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龍希はと言えば、隣に座る貴仁のこの表情で
今、この男が何を思っているのかを感じる事ができた。
『あぁ、この人は、またオレの事ばかりを気にかけて、勝手に自分を叱咤してる……』
何かとても辛そうで、でも強さと優しさに彩られた顔の貴仁から感じる、大きな大きなその愛にふふっと笑みを漏らすと
そうだ。と思い出した話を始めた
「貴仁さんさ、前に、対等だから怖いって…言ったよね?」
まさに今、思い起こしていた話を振られた貴仁はぎょっとして、少しばかり、「あぁ、そうだな……」と、ばつが悪そうに頷く
しかし龍希が、それとは対照的な笑顔を覗かせ紡いだ言葉に、貴仁は次こそ本当に驚いた。
龍希は、言ったのだ
「オレ、それ聞いて、あぁ、ゲイで良かったな。って思ったんだよ?」
乗り合わせた電車の車両に人数は少なく、隣のボックス席にも、横の通路にも人は居なかったけれども、
後ろの席には人が居たし、人数が少ないからこそ比較的静かなこの空間で
龍希が、何の躊躇もなく、ゲイで有ることを口にしたのだ。
そして、尚も言葉を続けるその表情はそれはそれはとても幸福に満ちて見えた
「オレさ、こんな性格だから、何か有る毎にゲイだってのを勝手な理由にしてさ、いじけてきた。ホント、嫌になるね、こんな性格……。
でもね?貴仁さんが、対等だから……って言ってくれた時、オレ、自分がゲイだから、男だから、ずっとリアルに対等で、人間として貴方と恋をスタート出来るんだ。って、そう思えたんだ。」
それは、貴仁がマイナスだと思って恐れていた部分だった。
自分達は、たまに男で、たまに女のような気持ちで互いを愛する。何処かで常に自分がしっかりしてなくてはいけない、強くなくてはいけない、と思うあまり、それらをマイナスに思ってきた貴仁だが、それは違うのだよと、
今、目の前の、いつだって何かに怯えていた男が教えてくれていた。
電車の中で、何を気にする事もなく
それはまるで、普通に恋をする恋人同士のように……
………否、普通とは何だ?
これこそが、これこそが普通で有るのだと改めよう。
人間が、人間に恋をして愛しているのだと気付き、そを求め、受け入れ、互いの瞳に互いを写し入れる事
その行動に、感情に、一方的なマイノリティなど存在はしない。全てがマジョリティであり、全てがマイノリティである。
物言わぬ多数派は、少数派を圧制するだろうか?
逆に、少数派は多数派に圧制されているのだろうか?
自分にしか基準の無い言葉はヘイトを生むかもしれないが、
少しでも相手への想いが乗せられているなら、その言葉は、たとえ間違った言い方となったとしても、恐らく身勝手にヘイトを生み出す事は無いだろう。
無知とは知らないという事だ。
きっと、最初は相手を傷付けるかもしれないし、失敗をするかもしれない。
それでも、必要なのは、知らないままにしない事だ。
自分と違うから深く知る必要は無い、などと思わずに
何事も、知ってみる事だ。
最初の一歩は失礼が有っても、それは知るための第一歩。
人種も、性も、障がいも、
知る事をサボって意見してはいけない。
貴仁は、自分達の関係に、何の問題を感じていたのだろうかと知るかのような、この幸福な温度に溺れた。
目の前の男が本当に、強くて美しくて格好よくて愛らしくてならない。
「……貴仁さん、何か言いたそう。」
見つめる龍希が、貴仁の視線に何かを察知しそれを促すように口にすると、
貴仁は、少し気恥ずかしそうに笑い言う。
「……なぁ、龍希、これは、俺から言ってもいいかな?」
対等だなんて言っておいて悪いけど……。と付け足した貴仁へ、
その意味を理解したのか、龍希は、
仕方ないなぁ。と微笑み返す。至極、嬉しそうに、
その言葉を今か今かと待つように。
貴仁は、ここが電車の中である事など、やはり関係無いように、
そっとその手を龍希へ伸ばすと、真っ直ぐと、最愛のパートナーの瞳を見つめて言葉を紡ぐ
「……龍希、来年も再来年も、ずっと先も、この手にシワが寄って、俺の髪の毛ももっとうんと、白髪になった頃にも、また、こうして手を繋がせて?そして、やっぱり、今でも愛してるよと、俺に微笑ませて?」
その言葉に龍希は考えられない程の喜びを見ている気分で、瞳に写る自分の恋人へと恋をした
「……うん、あのね、オレも大丈夫、しわくちゃになっても、この手を繋いでる。この手が有れば、壁なんて何でも越えられる」
伸ばされたその手は、少しだけ戸惑ってから互いの温度を感じ取る。
それは、いつも、どこでも、とはいかない行為かもしれない。
まだ、この世界で、この国で、
彼らはマイノリティの1人にすぎない。
今の、この様子だって見て気持ち悪いなどと思う人が要るだろう。……居て構わない。
誰の為に恋をするのではない
だから、嫌悪したくて仕方ない人を気にする必要は強いられた事ではない。
ただ
恋をしているだけだ。
龍希という少しだけ難しい生き方をしてきた青年と、貴仁という至極、幸福に愛されてきた生真面目な男が
今日も、あなたの側で
ただ、人として恋をしているだけの
互いの温度に幸福を得ているだけの
2人、一緒に並んで暮らしていきたいだけの
これは、たったそれだけの、
いたって当たり前の、愛の物語だ。
■「珈琲は苦く、ゆず茶は香る」終わり■
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