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18歳以上ですか?
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玄関の靴。
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わかりやすく言うならば、
貴仁のこの歳にもなれば、恋人を作る。と、言うことは結婚を考えると言う事に結び付くように一般的には認識されているはずである。
それこそが、いわゆる、多くの人の生きている【環境】である。
結婚を考える。そうする事で「この人を愛する」と言う感情にも、仕事を今以上に頑張ると言う感情にも、1つの印しのような、カタチのようなものを付けられる。
そして、「結婚」と言う1つ目のゴールともなり得る目的を見て進む事が出来る。
それは、思っている以上に「他人である相手と愛し合う」という感情において、大きな安定と安心感を齎してくれる。
この場合の安心感とは、おそらく人それぞれだ。
社会的安定だったり、親や親族へ与えたい安心感だったり、仕事をさらに充実させられる安心感だったり様々だろう。
どちらにせよ、結婚と言うゴールを公言して、
社会的安定を得て、尚且つ家族を得る。と言うのは大きい事だ。
───格好わりぃけど、どうしても前を見れないんだよな……。
龍希の事はきっと、もう、好きでいるのだろうけれど、
これを恋愛のそれだと認める事が出来ない自分を、
格好が悪いと思いつつ、けれども踏ん切りなど、容易く付ける事は出来ない。
貴仁がまた1つ大きくため息を吐き出すと、
背中の方から何か気配を感じた。
玄関に腰掛けたまま後ろを振り向くと、少し先の廊下の曲がり門辺りから、こちらを見つづける2つ目。
猫のもんたである。
「……おまえなぁ、ご主人が帰宅したんだからもう少し近づいて迎え入れてもいいんだぞ?」
「にゃー」の一言も鳴かないまま、貴仁が靴を脱ぎだしたのを見届けるとスタスタと去っていった。
相変わらず自分は飼い猫に好かれていないなぁと認識すると、同じ廊下へと進んだ。
何の反応も無い事から、龍希はどこかで居眠りでもしているのだろう、と思ってはいたが、
たまに縁側で横になって居るのを見るが、そこには居なかった。
すると、さっさと歩いて先に行ったもんたが、
にゃーぁ。と、いつものそれより、可愛らしい鳴き声をもらし、食卓も有るキッチンへ入って行くのが見えた。
あぁ、そこに居るんだな?とすぐに理解すると、続いてキッチンへと向かう。
そこには食卓に座り、そのままうつ伏せで寝息をたてる龍希が居た。
共に暮らしてみて、貴仁は初めて知った事だが、
龍希は昔から眠りが浅いらしく、よく昼寝をする。
小学生の頃、施設に入ってからだと言うから、眠りの浅くなる理由などは、何が原因なのか、考えずともだいたいの理解は出来た。
大人になってからは、かなり落ち着き、普段はしっかりと眠れているようだったが、
最近になり、父親が頻繁に実家へ出入りをするようになったため、実家に全く近づかなくなったのだ。
いくらここのところ良い事が続いていたとは言え、
再び思い起こす過去も有るだろう。うまく寝付けない日々が戻って居るのかもしれない。
───お疲れ様……だな。
上手く色々な気持ちに寄り添ってやれるどころか、
まともに会話も出来てない日が続いていたため申し訳ないなと思う貴仁は、ふと、そこで今自分が無意識にとっていた行動に驚かされた。
髪に。触れようとしている。
誰でもない、龍希のだ。
龍希の髪は、サラリとしていて柔らかく、思わず触れたくなる……類の髪質では、決してない。
どちらかと言えば太めで、痛んでいるためゴワゴワとして固い。と、言う表現が正しいそれである。
それに、思わず触れたくなっていたのだ。
もう何の言い訳が有るだろうか?
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