アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
無理
-
つまりは、貴仁に自分は無理をさせているのではないか?
やはりゲイである自分に恋人として縛り付けるのは間違っているのではないか?
と、言う事だった。
あの日から手を繋げたのは、2回程度だ。
そのどちらも、龍希がキッカケを見つけて貴仁の手に触れようとし、初めて触れてくれている。
それだけでも信じられないくらいに幸せだ。
しかしそれは不安を色濃くさせる。
それは貴仁も同じであった。
自分はゲイではない。
それは思っている以上に貴仁を悩ませ、苛立たせた。
怖かった。どんどんと好きになる感情と共に、どこか、置いてけぼりにされてるような疎外感。それは恐怖にも似た不安だった。
そんな2人なのだ。
無論、キスなどという行為には全く近ずいてもいなかった。
友人以外何者にも見えないであろう、2人の距離は
やはり無理なのだという結論を龍希に与えてしまっていても仕方ない事かもしれない。
さて、再び聞き直しても尚、変わらない内容が帰って来た事に、
あー!もう!!と、呆れた叫びをあげたけんちゃんは、手仕事を進めながら、さも簡単な会話をするかのような力の抜き具合で言葉を進めた。
「あのねぇ、そもそもアタシには、人が人をパートナーに選ぼうって決める時に1つも無理が無い方が嘘で、気味が悪いと思うけど?そこにゲイだとか、ストレートだとか関係なくて、よ?勿論。」
「……やっぱり無理させてるんじゃん…」
どういう事か?と疑問符の龍希の言葉に、
けんちゃんはまた、落ち着いた口調で続けた
当たり前の話をするように。
「そうね、無理させてるんでしょうね。でも、じゃあ、そもそも無理って何よ?
沢山ある無理が目に入らないぐらいには、好きって気持ちが大きくなったから、一緒に居る事を選ぶんじゃないのかしら?」
違うかしら?と付け加えながら、尚も言葉を、続けるけんちゃんは、まるで、今日の夕飯何にする?と言ってるかのような口調と表情である。
「……で、ね?目に入らなくなった時点で、その無理は他の人から見たら無理でも、貴仁さん本人にとっては無理じゃなくなってるのだと思うけど?
違う?ゲイだとか、ストレートだとか関係なく、恋愛ってそうじゃない?」
───無理が、無理じゃなくなる?
チョコソースのかけられたホイップクリームをスプーンに乗せて、
それをしばらく見つめながら、龍希はその言葉を、繰り返し考えた。
そして、考えてみてからけんちゃんの軽い口調とは真逆の険しさで言葉を紡いだ。
「……えっと、それは要するに、ダイエット一時休戦のオレが、久しぶりのモリモリクリーム食べてる今、貴仁さんから会いたいからすぐ帰ってきて!って言われたら、これを残して帰っても勿体ないとか思わない!…って言う……そういう感じ??かな?」
かな?とけんちゃんの顔を見つめる龍希のそれは、
至福のホイップクリームを逃す悲壮感と、
例え話しとは言え、貴仁に会いたいと言われた妄想とで得られた喜びのニヤケ顔とで、ごっちゃになっていた。
「……呆れた。あんた、例え話しも世界一くだらないわね。」
貴仁の「会いたい」が、ホイップクリームと天秤にかけられるのかと思うと、
いよいよこの男は、本当は悩んでいるのではなく、ここにノロケに来たのではないか?と思わずに居られないが、
それでも、貴仁に無理をさせているのではないか?という日々は、龍希には大きな悩みなのである。
「……まぁ、ともかくよ、何かちょっと違う気もするけど、そんな感じよ。無理はさせてるかもしれないけど、あんたはもう少し、自分の事を好きだと言ってくれた人を、信じてあげなさいな。」
「……信じる、かぁ。」
そうだね、と頷いてみせると、
──苦手だなぁ、それ。
と、口には出さない言葉を飲み込んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 90