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幸福という名の不安
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龍希は知っていた。
貴仁は今はもう、彼女の所の仕事は終えている。
もう顔を合わす事など、無くても構わない相手なはずだ。
それなのに、彼女は貴仁が休みだったり、仕事に余裕があったりすると、度々連絡を取っているのだから彼女の思惑など、一目瞭然。
なんとも解りやすい……と、思うのだが、
案の定、貴仁はまるで理解していないのだから、呆れると言うか、イライラすると言うか。
そもそも、いちいち女性の影を気にする事ほど、今の関係において不毛な事は無いのだが、
龍希にしてみたならば、
自分と貴仁の関係など、明日にでも終わるのではと思ってしまう脆さを伴うと勝手に考えているのだから、
貴仁を異性として見ている女性の存在など、それこそ一瞬にして、今の自分の幸福をすっかりと消してしまえる存在に他ならない。
───女々しいのも、情けないのも解ってる
それでもその女性がもしも本気を出して貴仁にアプローチを始めたならば、
自分に勝ち目など無いのは容易に想像できた。
悔しかった。
自信を持って、それでも自分を愛してくれる。
この手を離さずにいてくれる。
などと本当は言ってみたい。
けれどそんな事が言えるほど、この手をまともに繋げてさえいやしない。
そろそろひと月、キスなどと言っている場合ではない。
あの手が、あちらからの意志で自分を求めた事など、いまだ一度も無い。
勿論、気持ちなんてまだ伴って無くとも構わないと思っていた。それでも龍希は、
あの手だけは自分へ向けられているモノだと思いたいのだ。
今まで女性を愛して来た男だ。
婚約者と幸福になるはずだった男だ。
手に触れるだけでも、あんなにも勇気を振り絞った人であり、それを思えば男の自分とキスだなどと、
そんな無理をさせたいなど、龍希は思わなかった。
……否、思わなかったとは嘘だ。
本当を言えば、手を繋ぎたいし、キスもしたい。なんならそれ以上だって欲しい。
無理をさせない関係になりたい。
───やばい。泣きそうだ
考えだした思考はとめどなく。
同じ家に住んでいても互いに仕事が中心の生活に
顔を合わせて話す機会も少ない、
強がっていなければ、悔しさで、情けのない自分しか見えなくなりそうな日々だった。
とにかく今は、あの手を触れても許してもらえる位置に自分が居るのだと言うことだけが、
己を支えていた。
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