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そして絶望へ
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その絶望の正体でもある女性は
それを絶望だなどと思う人間を非難したくなる程に美しく、愛らしく、優しい空気をまとい、
龍希の近くへ来ると、
そこで気がつき、足を止めた。
そして、龍希の顔を見つめ、そのうすい桜色のリップの艶やかな唇を小さく開くのだ。
「……あ、……新井田さんの所の……?」
彼女が香奈子に似ていると解った今
会話を楽しむなど到底無理な事であったが
それでも笑顔で挨拶をする。
それが日尾龍希と言う男だ。
「わぁ、やっぱり!……何度かお会いしてますよね、えーと、確か……そう、龍希さん。ですよね」
教えていない筈の下の名前が呼ばれた驚きを素直に顔に出すと、
彼女は、ふふっと笑い、付け加えて言った。
桜色のリップが、再びその艶を増した気がした
「新井田さんがね、たまに、あなたの事もお話くださるから。」
自分の事を、人に話している。
その事実を嬉しく感じた。どんな事を?どんな顔で話すのだろう。
笑顔で話すのだろうか?
少しどっしりと構えたような、それでいて柔らかいあの笑顔で自分の事を人へ話すのか……。
龍希はそれを思い描くと、
ささくれていた心が温まる気がした。
こんな幸せを感じられるなんて、と素直に喜んだ。
すると、また彼女の声が優しく舞った。
「お家には、いつもお邪魔して、ごめんなさいね。仕事でもないお喋りをしているお時間、勿体ないくらいに、新井田先生、最近は忙しくされてるのに……」
それは、明らかに仕事の話ではない要件で来ている事が解る台詞。
龍希は再び心にささくれを作りながらも、
そうですね。と、何もないかのような、聞き手が安心感を得る笑顔を作ってみせた。
決して作り物には見えない自然な笑顔。
それは、彼の得意技。
その龍希の安堵感すら感じる笑顔がそうさせたのか、そこは定かでは無いが彼女は少し気を許したような、こんな言葉を口にした。
「……素敵な方、ですよね新井田さんは。」
明らかに、好意を寄せていますと。容易に想像が出来る台詞。
──……何て、答えればいいんだよ。
その心はどれだけ穏やかでなくとも、1つも崩れる事のない笑顔をキープさせながら、
龍希は無言で小さく頷いてみせる。
──同意とか、するのが正解なのか?
ささくれに絆創膏を巻くように、
湧き上がる気持ちを、片っ端から押し込めてみせる
そして、「あなたもそう思う?」と、嬉しそうに微笑んでみせてくれるその彼女の顔にも、
彼は漏れなく、自然な笑顔で答えてみせた
「はい、昔から良くして貰ってます」
せめて、自分は昔からあの人の事を知ってるんだぞと言う事を示した
小さな小さな反撃の言葉。
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