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第7章、泣いて、抱きしめて、そして
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人間の中の、当然の権利のような願いを切なる願いかのように口にしたならば、
龍希は、先刻から感じていた大きな壁をさらに大きく感じられた。
その壁とは、マジョリティとマイノリティそのもの。
ゲイとして生きてきた自分の生き方を振り返ってみても、現在、2005年の日本というこの国で生きる今も、感じずにはいられない、見えないけれども大きな壁
マイノリティ【社会的少数者】
辞書を引けば出てくるような説明が、己を取り囲む大きな壁に烙印されているように思えてならなかった。
───……それをこの人に、押し付けていいのかな、良いわけがないよな
自分が我慢すればこのまま、終わりに出来る事なのに。
この人にこの壁を見せなくてすむのに
貴仁がそれを嫌だと思って居ないと言う事は想定はされておらず、勝手に嫌なんだと想定されている思考だったが、龍希にはそうとしか考えられないのだ。愛しているから。
そして、貴仁はと言えば
小さい頃を知っているからこそ、目の前の龍希が涙を流せている事の大きさを痛感していた。
涙を流せば捨てられると信じて疑わず、涙を流さず生きてきた龍希の、自分を守る為に封じてきたそれをボロボロと流す姿。
───……あぁ、俺は、こいつがいくらでも平気で泣ける場所でありたい。
2人は皮肉にも同時に互いの幸を考え、願い、それが壁になっていて。
愛とはまるで大きく優しい我が儘のようだ。
すると、貴仁は、1つ心に決めると自らもその膝を尽き、目線を龍希と合わせられる程度にまで高さを合わせた。
けれども俯き泣いている龍希はその視線には気付く事もないままに、
先に口を開いたのは、決意を秘めた貴仁ではなく、
この恋と、この関係を諦めかけた龍希の方であった。
「……もう、ダメだ。無理だから、終わろう。終わりにしようよ。これ以上、貴方に触れていたならオレ、本当に離れられなくなる。」
けれども決意をした貴仁は、飛び込んできたその言葉に、躊躇う事はもうなかった。
ひとたび、決意をしたならば揺るがない。
それがこの貴仁という男であったからだ。
「……うん……離れないで欲しい。」
そう言うと、その手を龍希の頬にあて、
強引にこちらを向かせるかのように、ぐいっとその顔を自分へと向けてみせたのだ。
何を言っているのか?そう考えたものの、龍希は自分の頬にあたる体温と、強い力を感じ、
その瞳から目を離さずにはいられなかった。
そして、気付くのだった。己の頬にかけられた強引な力とは裏腹に、貴仁の顔は今にも泣きそうであり、
それは、すでに先程から泣きじゃくっている自分へと、呼応しているかのようだった。
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