アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第8章、珈琲とゆず茶
-
貴仁は優しかった。
相変わらず仕事で2人は顔すら合わせられないすれ違いが多かったのだが、
貴仁は、どれだけ忙しくともなるべく龍希と顔を合わせるようにしてくれていたし、
「おはよう」や「おやすみ」の挨拶は供に居られない時でも必ず伝えた。
仕事中ならばメールとして、それらはその一言だけの短い姿を見せてくれた。
龍希には小まめに携帯電話を見ると言う新しい癖が生まれた。それは日々の幸福の時間となっていたほどだ。
しかし、それには少しの失敗が関係していた。
一人暮らしの癖なのか、男同士という油断のようなものがそうさせたのか、
貴仁は昔から、せめておはようとおやすみの挨拶はしなさい!と香奈子に怒られていたような男であったし、
逆に龍希は挨拶の無い家庭だったせいか、
挨拶がある事を幸福と直結させるところがあった。
そんなある日、それが原因で行き違いが発生し、やがては小さな喧嘩となったのだ。
挨拶すら出来ない日々を悲しむのでなく、すぐに我慢をする龍希も悪ければ
挨拶なんてさほど2人の間に関連しないと思っていた貴仁も悪いだろう。
その喧嘩は龍希を少し傷つけ
貴仁を大きく戸惑わせた
その事が有ってからというもの、
貴仁は特に挨拶は大切にしたのである。それが龍希の安心感に繋がると気がついたからだ。
彼は龍希と共に暮らしてみて、恋人となってみて、気付いた事を、1つ1つ実践してみては、
その笑顔を増やしていってくれた。
変わらずどうしても、ストレートとゲイという壁を感じては信じきれずに不安を増やす龍希の心に
貴仁は、なるべく早く気付いては、決まってハグをした。
両の手を広げては、必ずこう言って龍希を迎え入れるのだ。
「おいで。」
と、たった一言。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 90