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「先生、これでもう、さようならです」
桜並木のある道を、駅へ向かいながらゆっくりと歩く。
僕の肩に桜の花弁が舞い落ち、足を止め、その花弁を指先で摘まむ。
上を見上げると、桜の木が風に揺すられ沢山の花弁を散らしていた。
「散ってしまうね」
急ぎ足で散って行く桜の様に、僕の思いも一緒に散って欲しいと思う。
早く、僕の心から、消えて無くなればいいと思う。
一年の間、ただ一人を思い続けた。
「僕、ずっと前から、先生の事が、好きでした。先生の、恋人になりたいです!」
「…えっと、ちょっと待て。君の、学年と名前は?というか、今のは本気?」
先生は困惑した表情を浮かべている。僕の名前どころか存在すら知らなかった。それに傷付かなかったと言えば嘘になるけれど、それは仕方がない事だと直ぐに割り切った。何の関わりもない、地味で友人もいない、空気の様な僕を知っている事の方が凄い事だ。
「入学式の日、先生が、僕を保健室まで連れて行ってくれたんです。憶えていませんか?」
「いや、悪い。憶えてない」
入学式の最中、貧血を起こしふらついた僕を支えてくれたのが先生だった。そのまま先生は歩けない僕を背負うとゆっくりと歩きながら、大丈夫か、と何度も声を掛けてくれた。その時の先生の背中の温もりに、僕を保健室に送り届けてくれた後見せてくれた柔らかい笑みに、僕の心は囚われてしまった。でも先生にとっては記憶の隅にも残らないような些細な出来事で、さすがにこう何度も打ちのめされると落ち込んでしまう。
「そう、ですか」
「…すまない。それで、俺を好きだとか、恋人になりたいだとか言ったのは、本気なのか?」
僕は黙って頷いた。
「生徒と恋愛関係になるつもりはない。でも、君が卒業してからなら考えてもいい」
「え?」
それは思いもよらない言葉だった。
「だからといって、君と恋愛するかどうかは分からないよ。待っていても無駄かもしれない」
僕は何度も首を大きく振り、先生を見つめた。
「い、いいです!僕、待ちます」
必死になる僕に先生は驚いていたけれど、苦笑すると俺の頭に手を置いた。
「分かった」
叶うかどうかは分からない、それでも今、この恋 を諦めなくてもいいのだという事が嬉しかった。
この時の僕はそれだけで幸せだと思えた。
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