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【ちなは】*07
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口の中が渇いてきた。
電話の相手が矢濱だと思うだけで、息苦しくなって目が泳ぎ、目線が定まらなくなってくる。
「大丈夫ですか?」
隣に座った会長サマが心配そうに僕の手を握った。
長年、植え付けられた恐怖は簡単には払拭できない。
深く根底に根付いて、今も僕を蝕み続けている。
日常的に殴られる事が多くなると、頭上で手を上げられた時、咄嗟に顔や頭を庇ってしまうように、反射的に震えが止まらない。
こんな些細な事ですら、あいつの影に怯えて小さくなった。
「ちなはさん、一人にして済みませんでした…」
会長サマが僕の体を引き寄せて、肩を抱く。
「きいやさんには楓月も瑠璃もいますし、あなたには私がいます。」
会長サマの手を握り返して、自分に言い聞かせた。
『大丈夫、怖くない。』
『僕には会長サマがいる。』
『矢濱なんか、怖がらなくていい。』
「信じて下さい。彼らの事は、私が何とかしてみせます。だから…」
僕の大好きな会長サマの匂いがする。
浅くなった呼吸を整えて、胸いっぱい深く吸い込んだ。
僕の前世は、きっと犬か猫だったに違いない。
だって、好きな人の匂いを嗅いでいると落ち着くんだから…
ゆっくりと息を吐く。
「…し、信じる。僕も負けないよ。」
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