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そのとき、テーブルの上に置かれていた響のケータイが震えた。
高校時代からずっと使い続けている二つ折りのガラケー。蛍光の黄色だった表面は剥げ、ところどころ銀色になってしまっている。
「すいません、ちょっといいですか……」
こちらに目配せし、軽く会釈をしてから、彼はそれを開いた。
すかさず、
「もちかしてカノジョから?」
と、からかう兄。
「へへへっ、そうなんですよー」
響は口の端をゆるませると、なにやら打ち込み始めた。
すぐに返信しなければいけないメールなのだろうか。今どこにいるとか、何してるとかそういう内容なのだろうか。
なんと返すのだろうか。
無意識のうちに、その手元を凝視していた。
「いいでちゅねー、そういうの。うらやまちぃ」
兄さんはしみじみとつぶやき、俺の肩に手を回してきた。肩先から二の腕までを揉むように触られる。
振り払うのは面倒で、好きなようにさせておいた。
――とてもあたたかい手だった。
「エタさんは好きな人いないんですか?」
こちらを気遣ってか、響は画面を見つめたまま話題を振ってくれる。
するとよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにニッタリと笑った兄は、
「もっちろん、いまちゅよ! ねっ、たちゅひろきゅんー!」
と、強引に頬を寄せ、スリスリと擦り付けてきた。
「痛っ、痛いからっ、やめろ!」
「素直じゃないでちゅねぇええでも嫌いじゃないでちゅよぉおおお」
アホみたいなことをされながらも、俺の目は響の手元から離れなかった。
もちろん、ここからでは画面の文字を見ることはできない。
なのにどうしても目をそらせなかった。
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