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「友達に恋人ができた、か。……ちゃんと祝福してあげなくちゃな」
罪悪感をえぐるような言葉。
「……っ」
反射的に首を振っていた。
とてもお祝いなんてできない。俺はずっと、ずっと本気で――。
それなのに急に横取りされて、悔しくて、たまらないのに。
「まあ、無理して祝われたって向こうも嬉しくないだろうから、今はいいんじゃないか」
今は、という小さな言葉が引っかかる。
「時が経てば素直にお祝いできるさ。……もしくは、他の言葉が準備できるようになる」
そのうち。
なるだろうか。
俺はまだ頭のどこかで、いつか響を取り戻せるような気でいる。
そうなると信じている。
保証など、どこにもないのに。
そうはならない確率の方が、ずっとずっと高いのに。
「それより、龍広――」
思考の海に沈んでいきかけた俺を引き上げるように、兄は言った。
「今度なにか話したかったら、直接電話くれよ」
「え?」
「すぐには出れないかもしれないけど、必ず返すから」
有難いことだが、どうしてわざわざそんなことを言うのだろう。
深刻な顔をしすぎてしまっただろうか。心配させてしまったのか――。などと考えていると、
「お前にケティは刺激が強すぎるだろ?」
冗談のように笑って兄は言った。
一方で、その目の奥は真剣だった。
――ケティには近づくな。
つまり、そう言いたいのだろう。
警告の裏にあるものが一体なんなのか、分からなくて、でも自らそれを掘り下げる勇気はなくて、
「うん……」
素直にうなずくしかなかった。
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