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出来心/偵察者(40頁)
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◆ ◆ ◆
それは突然始まった。
響が俺のことを、
「たっくん」
と、呼び始めたのである。
いや、最初の数日は兄の呼び方を真似て「たっちゅん」と面白がっていたっけ。
そのうち飽きるだろうと好きなようにさせたものの、いっこうにやめようとしなかった。
痺れを切らし「気味が悪いからやめろ」と言った結果、「たっくん」に落ち着いたのである。
挙げ句の果てには、
「ボクのこともヒーくんって呼んでいいからさ」
などと言ってくる始末。
一瞬、心が揺らぎそうになったものの、
「――バカが」
「あははっ、だよね」
なんとか自我を保つことができた。
やがて新しい呼ばれ方に慣れた頃には、大学の前期試験のほとんどが終わっていた。
日に日に授業数が減っていき、暇な時間ばかりが増えていく。
どこかへ行きたいが、以前のように誘うのは後ろめたかった。
友情と恋愛、彼はどちらを優先するのだろう。分からない。だが俺が身を引けば、おのずと恋愛に比重がおかれていくのは明白だろう。
無理に誘って迷わせるようなことはしたくない。
――いや、本当は断られるのが怖かった。
“これからデートだから”などと言われたら、その日どんな顔で過ごせばいいのか分からない。
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