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それもこれも、響が恋人の話をしようとしないせいだ。
まったく。
これっぽっちも。
独りの俺に配慮してくれているのか、それとも話すことがないのか。
そもそも上手くいっているかどうかすら分からない。
のろけ話は辛すぎると思っていたが、何もないのも気になってしまう。
ごちゃごちゃ考える時間がわずらわしくて、俺の足は響のバイト先に向かっていた。
なんでもいいから情報がほしかった。
傷ついてもいい。
このまま何も知らずにいるのは、苦しくてたまらなかった。
◆ ◆ ◆
駅からのびる歩道橋をまっすぐに進み、バスターミナルへと抜ける。
その先にあるファッションビル。その中に響の勤める書店がある。
書籍ごとにいくつかの階に分かれており、響がいるのは専門書を多くそろえたフロアだ。
上質な紙のニオイがたちこめ、客の姿は他のフロアに比べて少ない。
俺は重々しくそびえたつ本棚の間を練り歩き、響の姿を探す。
ちょっとした冒険のよう。
働いている彼を見るのはどうにも照れ臭くて、今までここに来たことはなかった。
俺に気づいたらきっと驚くだろう――などと考えると胸が高鳴るが、このフロアのどこかに例の彼女もいるのだ。
浮ついてばかりもいられない。
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