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傍観者/疑問視(46頁)
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尾津は少しも動じることなく、軽く咳払いをしただけだった。
「言葉が過ぎました。申し訳ありません、お客様」
よくそんなこと言えたものだ。少しも思っていないくせに。
「お詫びに教えてあげましょっか。……私の今のお気に入りは、塩田(しおた)まほちゃんっていうの」
「まほ?」
「今、レジに入ってきた子よ」
まるで尾津の言葉を合図にしたかのように、奥からやってきた若い女がカウンターの内側へ入り、レジを開けた。
まだ高校生くらいの、あどけなさがある子。
暑いのか緊張して居るのか分からないが、頬を真っ赤に染めている。
化粧っ気のない澄んだ目は手元の辺りをうろうろとさまよい、落ち着きがない。
「顔ちっちゃくて可愛いでしょ」
「……どうでもいい」
「すっごく面白い子よ。見てて全然飽きないの」
恋愛などしたことがなさそうな純な雰囲気。
あの娘が響を束縛している――とは、どうもイメージが結びつかない。
「……さぁて、お仕事お仕事! いきますかぁ!」
尾津はわざとらしくあくびをすると、すれ違いざま俺の手に何かを握らせる。
スマホだった。
尻ポケットに入れていたはずだが、いつの間に抜き取られたのだろう。
画面を見ると尾津の連絡先がきっちり登録されていた。
◆ ◆ ◆
俺はそれからもしばらく店内を回った。気づかれぬようそっと店員を観察してみる。
だが、恋人を強く束縛するような雰囲気の者はいない。
と、いうか、ふくよかで穏やかそうなおばさんばかりなのである。
響は「後輩」と言っていた。
後輩らしき人物は一人しかいなかった。
――塩田まほ。
俺は本棚から適当に雑学本を取ると、彼女のレジめがけて一直線に歩き出していた。
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