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「たっくん、すぐ出て行くんだもん。びっくりしちゃった。早すぎ!」
「……ああ」
「大丈夫? ちゃんと書いたの? 実は白紙で出したりして」
「バカが。書いたに決まってんだろ」
ただ単に、設問を見てから回答を導き出すのにまったく時間がかからなかっただけだ。
制限時間は九十分だが、実質二十分もかからなかったと思う。
「本当? 凄いなぁ……」
「俺からしたら、お前のほうがよっぽど凄いが」
今、俺の中で渦巻いている問題に比べれば大学の試験なんて、どうってことはないのだから――。
「え、なんで?」
響はぽかんしたまましばらく俺の返事を待っていた。
けれど俺が何も言わないので、眉間にぎゅううっとシワを寄せた。
「もしや……、それってイヤミ?」
すると彼は自分が着ているジップアップパーカーを指差した。
そこには数種類の道路標識が模様パターンとして描かれている。進入禁止、歩行者専用、工事中、……などなど。
「これが凄い服だって言いたいんでしょ? そんなに変かなぁ。気に入ってんだけど」
そんな服を見て喜ぶのは、今まさに自動車学校に通っているヤツくらいだろう。
赤や青や黄色の鮮やかな模様に目がチカチカする。
「――まっ、いいや。そんなことよりさ、このあとゴハン食べに行かない?」
唐突な誘い。
胸の奥に刺さるような痛みを感じた。
「今からバイトじゃないのか?」
「試験だからシフト交代してもらってんの」
するとニヤニヤしていた響はそこでふっと真顔になった。
「たっくんにどうしても話したいことがあって……」
その何気無い一言をきっかけに、目の前の現実に血が通い始めた気がした。
その現実味に傷がつき、血が噴きだすのはもう時間の問題かもしれない。
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