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二人はバス停の前で立ち止まった。
やがてやってきたバスはとある女子校行き。
「それじゃあ、またメールします」
「うん。気をつけてね」
彼女が乗ったバスを見送った響は、肩でため息をついたようだった。くるりと回れ右をする。
そのとき、彼は笑顔だった。
だが、一歩踏み出した途端に頬からフッと力が抜け、笑みのような憂いのような曖昧な表情へと変わる。
あのときと同じだ。
――「彼女はまだ前の恋人のことが大好きみたいで」
――「……どうにか忘れたくって、ボクを選んだんじゃないかな」
そう打ち明けてくれたときと、同じ表情。
「ひ――!」
今すぐ彼の前へ飛び出したかった。
だが、すんでのところで思いとどまる。
ダメだ。
これは立派な尾行なのだ。
大学とも家とも違うこんな場所に俺なんかがいるはずがない。
どう考えてもここで会うのは不自然だ。
せめて駅まで戻ろう。それから偶然をよそおうことにしよう。
そう決めたときだった。
ポケットの中のスマホが細かく震え始めた。
数秒遅れて着信音が鳴りだす。
まさかと振り返ると、響は携帯電話を耳に当てていた。
「――あれ?」
さすがに近くで聞こえる電子音に気づいたらしい。キョロキョロと辺りを見回し始める。
俺は硬直したまま、一歩も動けなかった。
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