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すると兄は少しだけ振り返り、こちらを見た。
まるで最終確認をするかのように。
いつもまっすぐで、未来だけを見据えている目が、ゆっくりと細められる。
瞳の奥にヒリヒリした厳しさが混じったのが分かった。
怒られる――思わず身をすくめた瞬間、
「はぐれるなよ」
静かに言い放ち、兄は歩き出した。
一人、先を歩く背中は、なぜか寂しげで。
あの日以来、手を繋いだ記憶は無い。
自立した瞬間だったといえば、そうなのかもしれない。
けれど、今となってはもう少し優しく離れる方法はなかったのかと悔やんでしまう。
手を繋ぐことで、兄はずっと俺を守ってくれていた。
それなのに――。
「――たっちゅん!」
急に呼ばれ、現実へと引き戻された。
気づかぬうちにほんの少し眠っていたらしい。
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