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「大丈夫か。起きる元気ある?」
「……ん」
「水、飲むか?」
「……ほ、しい……」
返事をすると、「よしっ!」と嬉しそうな声が飛んでくる。
ゆっくりと――本当にゆっくりと起き上がる。
身体のいたるところはまだ痛むが、心配してくれる人の前でそんなことは言っていられない。
布団から出ると、タマネギを炒めた甘い匂いが部屋を満たしていた。
それを胸いっぱいに吸い込んでみる。
小さな頃からこの匂いが好きだ。
幸福に匂いがついているとするなら、飴色のタマネギの匂いだと思うくらいに。
けれど、兄がグラスに水を持ってきた瞬時、ハッと夢から覚めた。
慌てて手元のバスタオルを頭からかぶる。
「どうちた!?」
それまでぼんやりしていた俺が急に素早く動いたものだから、驚いたらしい。
「……さむ、い」
「えっ、本当にカゼでちゅか!?」
兄は遠慮も無しにズイッと覗き込んでくる。反射的に深くうつむき、顔を隠した。
――カゼなんて嘘だ。
本当は、泣いた顔と掻きむしった首を見られたくないだけである。
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