アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
(116頁)
-
――早く、言おう。
「……兄、さん……、れ……」
決意とは裏腹に、言葉が喉元で絡み、声にならない。
「……おっ、……俺……」
きっと、兄にとってケティは心の中を彩る花なのだろう。
その優雅な美しさをいくえにも重ねて咲く、大輪の花。
――俺の身体から罪悪感を吸い上げて咲く、しとやかな花。
「いやぁ、真っ向から改めて聞かれると焦るわ! すっげぇ照れる」
――ダメ、だ。
「あんまりお兄たんをからかうんじゃありまちぇんよ!」
――言えない。
両手の震えはいつの間にか全身にまで広がっていた。おさえこむように、噛み合わせた奥歯に力を入れる。
「っぐ……」
なにをいまさら偽善者ぶっているのだ。
とっくに裏切ってしまった後だというのに。
――兄さんは、当然、知らない。
俺にとってケティの笑顔は、逃げることのできぬ恐怖だということを。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
116 / 387