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「アンタは可哀想なまほちゃんに協力してあげたいとは思わないの?」
断言しよう。尾津が綺麗事を言うときは、大概、本心ではない。
こいつは自分さえ面白ければいいのだ。
誰が悲しもうと苦しもうと関係が無いと思っているはず。
一体なにをたくらんでいるのだ。
「龍広が響くんを信用できるっていうなら、安心して付き合えるのよね?」
邪心に促されているとは知らず、こくん、と塩田まほはうなずく。とても素直に。
「前の彼氏とは結婚が前提だったから、あんなことや、こんなこともしたけど……。今回はそうもいかないわよね?」
尾津はわざとらしく、彼女の耳元でささやく。吐息をかけるように。
すると、塩田まほは顔をさらに赤くさせ、目を固くつぶる。もう一度、こくんと頷いた。
「……し、慎重に、しなくちゃ、と……思ってます……」
この女、もう随分、尾津の毒が回っているらしい。
自分がなにを言わされてるのか分かっていないのだろう。
主体性の無い、操り人形と化した感じがどうにも腹が立つ。
「そんなことくらい、自分で判断しろ……」
思わず、心の声が漏れてしまった。すると塩田まほはまっすぐに俺を見た。
無造作に長い髪の隙間から、じっとのぞきこむように。
何か言いたそうなその黒い瞳は、水に浮く油のようにぬらぬらと光っていた。
相変わらず赤らんでいる頬。人工的な発色とは無縁そうなその肌。
生まれて間もない子猫のような純粋無垢さ――俺にはどうも、その姿がまやかしのように感じられた。
“なにもわからない”という顔をして、相手を貶めてしまいそうな危うさを感じる。取り返しのつかぬところまで。
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