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けれど、どうしたって黙っていられなかった。
「……頼む……から」
これは、俺のことじゃない。
「……あいつの心を、無視しないでくれ……」
彼のことだから。
俺が放ったことすべてが、彼のためになるから。
「あいつの気持ちに、ちゃんと応えてやってくれ」
塩田まほは黙ったままだ。
髪を揺らしてすらくれない。
「頼む……から……」
気がつくと俺は立ち上がり、テーブルに手をつき、深く頭を下げていた。
「頼むっ!」
他者のためにこんなに深く頭を下げたのは、生まれて初めてかもしれない。
「……っ」
彼のためならば、本望だ。
このまま、いつまでも下げていたっていい。
これで、あいつが幸せになれるのなら。
「――ちょっと。落ち着きなさいよ」
ずっと黙っていた尾津が口を開いた。
そこで俺は初めてハッと我に返り、顔を上げた。その瞬間、
「分かってるっ……!」
俺の目の前で塩田まほは悲痛に声を上げた。
「貴方なんかに言われなくったって、そんなの分かってる!」
まもなくしてその目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていった。
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