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残り物/仕合せ(143頁)
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◆ ◆ ◆
尾津がどう言おうと、関係無い。
俺はこれで満足している。
これでいい。
――今日の俺の行動はきっと、彼を幸せにする。
あまりの嬉しさに、身体はガクガク震えた。嬉しいのに――呼吸が詰まる。胸はおろか、頭の中まで引きつったように痛みだす。
足を一歩踏み出す度、目の奥のほうから何かこぼれそうになる。
どうしても、考えずにはいられなかった。
もし――。
あのとき、俺がよからぬことを吹き込んだら――。
その嘘を信じた塩田まほが、心の底から失望したら――。
彼女に突然別れを切り出されたら、あいつは――。
きっと、戻って来てくれただろう。
尾津の言う通りに。
俺はすぐさまその弱みにつけ込んで、そして――。
「……バカがっ……!」
愚かでしかない想像を打ち消すように首を振り、こめかみを殴った。
たとえ嘘だって、俺はあいつを悪く言うことなんてできない。
なのに、なにを考えているのだろう。
――あいつは、幸せになる。
この真実だけでいいだろう。
これですべて終わりだ。続きなど必要ない。めでたしめでたし。
俺にできることはもうなにも無い。
「……これで、いい……」
彼がこれからどんなに幸せになったって、たくさん笑ったって、そばにいるのは、俺じゃない。
「……くっ」
隣にいるのは、もう、俺じゃない。
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