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「響っ!」
ずっと、響が幸せになれば自分も幸せになれると信じていた。
だから、いくら鬱陶しくても、腹が立っても、一緒にいた。
報われたい、その一心で尽くしてきた。
いつかこの気持ちに気づいてくれる日を信じて。怖がらずに受け入れてくれると強く信じて。
どうせ伝わらないと諦め、飲み込んできた言葉の数々――そんなものたちに光が当たる日を待っていた。ずっと、ずっと。
それなのに――。
「……響っ!」
まるで羽虫のように、光る画面にすがりついていた。
通話履歴から彼の名と番号を探す。いつも一番上にあったはずのそれは、随分と下のほうに流れていた。
目移りしながら、指の震えを抑えながら、なんとか選び出す。
祈るような気持ちで耳に当てた。
数秒でいい。
つながりたい。
声が、聞きたい。
呼びたい。
その名前を呼びたい。
「……っ」
この空っぽな身体を埋めてほしい。
少しだけ。
少しだけでいい。
「……ひ、び……き……」
満足できたら、すぐに切るから。
「頼むっ……」
一瞬だけで、いいから。
「……頼むっ……!」
俺にも何かめぐんでほしい。
これが最後でいいから。
しかし、いくら待っても呼び出し音は空虚に鳴り続ける。
「……そう、か……」
腕から力が抜ける。
彼の名前が消えた画面に映し出されるのは、時間、今日の日付、それから曜日。
「……もう……、いい……」
二十一時六分、八月五日、火曜日。
彼までの距離はあまりに遠くなりすぎていた。
ここからは引き返せないくらいに――。
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