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(171頁)▼暴力有り
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「あっ……ああ……!」
指先で傷口を押し広げられると、痛みと共に新しい涙が生まれる。
ケティの言うとおりだ。
俺は、自分だけこの罪から逃れようとしている。
俺は彼に犯された“被害者”なのだから、許されてもいいと心のどこかで考えている。
この夜が明けたら、響に会ってこの傷と痛みを慰めてもらい、兄さんとはいつもみたく穏やかな時間を過ごしたい――などと、思っている。
「このまま逃げたところで、悔やむのは龍広なんだから……」
ケティの寂しげな声が、頭の奥に滑り込んできた。濡れた彼の一部が入ってくるときのように、ずるずると。
「だって、貴方、もうこんなに汚れてるのよ?」
この身体が彼の言葉一つ一つにきつく縛られていく。鎖のように冷たく絡みついていく。
「こんなに汚れ切った身体で、響くんに抱かれて良いはずがないでしょ?」
「……っう!」
今まで必死に守り続けていた希望が、涙で歪み、見えなくなっていく。
――ケティの、言う通りだ。
どんなに綺麗事を並べたって、慰めてもらったって、今までのことが無くなるわけではない。
兄を裏切り、罪を重ね続けた事実は、もう一生――。
「あたしと貴方は同じなの……。もう、一緒にいるしかないの」
決して許されないことを繰り返してきた。
そんな俺が、幸せになれるはずがない。
求めたところで誰かを不幸にするだけ。
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