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その音は近づいては遠のいていく。
誘われるように公園の中へ入り、まっすぐに歩いていくとその正体はあらわれた。
長い月日を雨風にさらされ、錆びついたブランコ。
その真ん中に鱗模様の男が座っていた。
深く深く肩を落とし、ゆりかご代わりにブランコを揺らしている。彼が地面を蹴る度、金属が擦れ合い、キィ、キィ、と規則的なリズムを生む。
「あ……」
自分の目が信じられなかった。
最初の数秒間はただの幻だと思った。夢と現実の境目が遂になくなって、願望がカタチを持ってあらわれただけなのだと。
思わず、後ずさった。
本当は駆け寄って、すがりつきたかったのに。たとえ幻で触れた瞬間に煙になったとしても、一瞬でいいからこの心を癒してほしかった。
「……たっ、くん……?」
だが、その幻は顔を上げて俺に気づいた。
「――たっくんっ!」
聴覚を震わせた。
「ひ……び……」
途端、俺は背中を向け、逃げ出していた。幻にしてはあまりにも鮮明すぎたから。
「待ってよっ!」
本当は走りたいのに、足がうまく動かない。
その幻がついてこられないほど遠くへ、逃げてしまいたいのに――。
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