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帰宅_1
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頭がずきずき痛んで、挨拶もそこそこに荷物を持って会社を出る。
電話をかけようと手にとったものの、指が震えて画面がタップできなくてそのまましゃがみこんだ。
__電話をして、迎えにきてもらおうと?
そんな都合良く優しくしてもらえるとでも思っているのか?
何が目的かわからない相手の懐に飛び込んで、痛い目をみるのは自分だけだぞ?__
もうわからない。どうしたらいいのか。
上司だと思っていた人のあんな行動を目の当たりにして、明日からどうしたらいいんだろう。
辞めてしまおうか。実家に戻るとでも言い訳すればいい。
帰る所なんてないけど。
辞めた所で僕の代わりはいくらでもいる。会社が困る事はない。
それとも、これに立ち向かう事が正しい社会人の道なんだろうか。
世間を知らないから、こんな時の対応を僕が知らないだけ?
ぐいっと腕をつかまれて引っ張られた。携帯を落としそうになって、見上げると優也さんが息を切らして睨んでいる。
「帰るぞ」
優しい声。掴まれた所が熱い。
「優也、さん。ど、うして?」
「連絡もないし、もう遅いから迎えにきてみたんだ。俺に電話をかける所だっただろう?」
何でこの人は僕に優しくするんだろう。
ほっとして涙が出そうになるのを堪える。
「やっぱりあのまま抱き潰すべきだった。」
そう言って僕の首に触れる。
一瞬、見開かれた目は苦々しい表情に変わった。それが、さっきの赤い印をみつけられたんだと気付いた時には助手席に突き飛ばされるように乗せられていた。
何か話さないといけないとわかっているのに、震えが止まらない。口を開こうとすると吐き気がこみ上げてくる。
バサリと膝の上に何かが置かれた。
「家まで送ってやるから目を閉じてろ」
優也さんのジャケット。
震える手で肩まで持ち上げると、朝まで包まれていたあの香りがふんわりと漂う。
香水?コロン?抱き締めると、あの部屋の香り。
どうしてうまくいかないのか。
どうして自分だけがだめなのか。
どうして、優也さんは優しくしてくれるのか。
どうして…、こんなに人に惹かれてしまっているのか。
自分ではわからなくて解決できない事ばかりが、ぐるぐる回る。
もう少しスマートに生きていきたいのに、不器用すぎてうまくいかない。
「酷い顔してるぞ。可愛い顔が台無しだ。」
一体どこが可愛いというのか。
色素が薄くて直射日光に弱い茶色の瞳。
下唇だけが厚くてやたら赤い唇。
鼻筋は真っ直ぐ通っていて、そこだけがアノヒトに似ている。
筋肉もなく薄い体、伸びなかった身長。
外見も能力も力でさえ、アノヒトに勝てる所なんて一つもなかった。今生きている事もアノヒトの機嫌を損ねるだろう。せめて顔を合わせないように家をでてきたけど、その先でまたこんな事に遭遇して震えている。
どこで生きていても同じだったかもしれない。毎日他人の顔色ばかり伺って。
うまく笑えた気がして、昔よりマシになった気でいただけ。
あの頃、全てから逃げたいだけだった。それでまた逃げ出そうとしている。
一体どこに?
どこに行けばいいんだろう。
__だから言っただろう。
1人ジャ何モデキナイクセニ__
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