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帰宅_2
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窓の向こうに東京ドームが木々を隔てた向こう側に見えるって事はいつの間にか車は大通りをはずれた所を走っているんだろう。
路肩に車を停めた優也さんが僕の肩を摘まんで、気持ちまで読みとろうとするようにじっとのぞき込んでくる。見開かれたままだった目は急に閉じる事はできなくて、それを見返す。
いっそ何もかも読みとってくれたら。
説明する手間もなく嫌ってもらえて丁度いいのに。
ちょうど、いい。
嫌われたくなくて必死だというのに、そんなよくわからない事がちょうどいいと思う。
口角を上げて笑う顔を作ってみる。
人の顔を見る時の癖みだいなものだ。
笑っている形にしておけばきっと普通に過ごしていける。
かすかな希望の形。
「泣けよ」
低い声で優也さんが言う。
泣く?人前で涙を流して?
そんなの無理。
醜い物が泣いたって醜いだけだ。
それだけはずっと前からわかってる。
泣いても何も変わらない。
だから、笑って優也さんを見返す。
「思ったより強情だな。昨日はあんなに鳴いたのに今日は声も出ないか?それとも会社の男がそんなによかったか。」
会社に相手がいて、それが男だと決めつけている訳だ。それならそれでも構わない。
優しくされるより辛くない。
怒っているように眉を寄せたその顔には色気があって、声を発する度に色がついて。
その色に少しずつ取り込まれていくような気がする。
このまま僕をその色に取り込んで消し去ってくれたらいいのに。
「今ならまだ、泣いて謝れば許してやれるんだぞ。」
許してもらえる?
泣けば許されるの?
それが本当なら涙なんていくらでも流すのに。
謝って、泣くだけで、たったそれだけで嫌われないのなら。
「…ごめんなさい。」
はりついた唇をはがすように声をだして目を閉じたら、ぼろぼろ涙がこぼれた。視界が真っ暗で何も見えない。
何も見たくないから見えないのか、本当に見えないのか自分でもよくわからない。
ただ。
こんな事で僕の存在が許される訳ない。
静かな沈黙。
「愁、どうして謝った?」
どうして。
どうして。
僕が駄目なヤツだから。
グズでノロマで醜いから。
死んでしまう勇気もない事を許して欲しいから。
だから。
ため息が頭上から降ってきて、抱き寄せられた。
暖かくていい匂いがする。
何が起きているの。
まさか許されたの?涙を流したから?
そんな期待は馬鹿げているんだけど。
昨日から優しくされている僕はそんな甘い事を考えるようになっているみたいだ。
「お前会社に好きなヤツでもいるの。そうじゃないだろ。そんな跡つけられて怯えた顔して。笑ったふりなんて俺に通用すると思うなよ。」
「ごめんなさ…」
言いかけたところで唇を掬われた。
軽く啄まれて僕を覗き込んで、しかめられた。
そうだよね。僕が泣いても醜いだけだ。
「言い訳しないのか?」
「っ…ごめんなさい。」
涙をとめようと息を止めて答える。
噛み締めた唇が指でなぞられて開かれる。
「体にきかないと素直になれないか。」
がたんっとシートが倒されてそのままそこに縫い付けられて唇を塞がれた。
唇をなぞった舌がするりと侵入してきて歯列をなぞる。
「んんっ。やっ。僕、汚いっ、から」
さっき会社で吐いたから、きっと胃液の匂いがしてる。
「汚い?誰かと同じ事したの」
この人はなんてことを。そんな訳ないのに…
間近でみつめる人に向けて僕はゆるゆると首を横にふる。
「愁、俺をみて。昨日みたいに名前を呼んで。」
耳に届く声が優しい。勝手に体が反応する。
中心に熱が集まってくる。
本当に許されたんじゃないかと誤解してしまう。
「…優也さん。」
自分から唇を重ねる。こたえるように舌が差し出されて絡み付く。
がしがしと食べられていくように舌を少しずつ噛まれて甘い痛みに溶けていきそう。
優也さんの熱が口いっぱいに広がって気付く。
自分が欲しい物に。
僕はこの熱が、この人が欲しい。
「はぁっ、あっ。優也さん、もっと。」
もっと、その熱をわけて。
ふっと笑った優也さんが見えた。
差し込まれる舌が全部欲しくて、角度を変えるために少し離れる事すら惜しくて自由にならない両手をふりほどいた。
「愁?」
驚いたみたいに唇を離した優也さんの首に両手でしがみつく
下唇に噛み付いて舌を這わせてその吐息までも吸い取る。
本当に全部、何もかも全部欲しい。
こんなに僕は貪欲だっただろうか。
手に入りはしない。でも欲しいと願う気持ちが止められない。
苦しくて悲しくて、手に負えない感情が渦巻く。
「っ、はぁっ、はぁっ」
息をついた所で優也さんの唇が僕の頬を滑る。
「こんなに泣いて、どうして欲しい」
と目尻まで唇を動かして涙を吸い取ってくれる。
泣いていたなんて初めて気がついた。
息があがって、涙もとまらなくて、優しく笑うこの人から離されたくなくてしがみつく。
「嫌いに、ならないで。ください。」
そう小声で呟いた僕は、その瞬間に強く強く抱き返された。
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