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帰宅_3
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「そんな事が心配なのか?本当にお前はかわいいな。」
そう笑って手を離された。
そんな事。そんな事が僕にはとても重要な意味をもつ。
離された体が急激に冷えたような気がして渡されたままのジャケットを抱きしめる。
その仕草をみて髪をぐしゃぐしゃっと撫でられた。
嫌われずにすんだのか。
泣いたから許されたのか。
どちらなのかはわからない。でも優也さんの機嫌は良くなったように見えた。
車は真っ直ぐマンションの駐車場に入って行く。
ぼんやりとそれを眺めながら、一日がようやく終わった事に気付く。
今朝、ここから出勤してまたここに帰ってきてしまった。
気恥ずかしいような、嬉しいような。
さっき自分の気持ちに気付いて言葉にしてしまったからかもしれない。
嫌われなければそれでいい。
いい思い出だけ残してくれればそれでいい。
そう思い込みたい自分と、それに反する体の反応。
どっちも本当だとして、自分にとれる行動は一つだから気付いてしまったところで何も変わらない。
体の反応なんて無視していればいい。
このまま近くに居座れるほど僕は図太くない。
「送っていただいて、ありがとうございました。」
優也さんの言葉を待たずに助手席を開けて外に出る。
今度こそ、ここでお別れ。最後まで嫌われなくてすんだ事が何よりの救いだと思う。
これ以上近くにいたら帰りたくなくなってしまう。
心地よすぎて戻れなくなってしまう。
まだ大丈夫。僕は一人で歩いていける。
「どこに行くつもりだ」
車から降りて歩き出した僕の背後から唸るように低い声が響く。
威圧感のある声音にぎくりとして動けなくなった。
近づく殺気。
恐くて振り向けない。
「なに、怯えてる。さっきあんな事して煽っておいて俺を置いて帰るなんてできると思ってるの。」
煽る?僕が?
「そ、そんな事してなっ、ひゃあっ。」
後ろから抱きすくめられて耳に噛み付かれて舌が差し込まれる。
力が抜けて優也さんを横目にそっと見つめると、黒い瞳がゆらゆら光って吸い込まれる。
綺麗な人。生まれてきた事も生きている事も罪にならない美しい人。
羨ましい。妬ましい。近づきたい。触りたい。
この人が、欲しい。
全部噛み砕いて自分の中に取り込んでしまいたい。
そんな事できるはずないのに。
触れる事さえ本当はかなわないはずだったのに。
この感情はなんていう名前なの。
視界に黒い瞳だけが映った事に気付いた時には、下唇を噛まれてた。
ズキンー
下半身に恥ずかしい痛みが走った。足が震えてその場に崩れ落ちる。
息が乱れてしまって体温が何度も急上昇したような気がして苦しい。
「ゆ、うや、さん」
無意識に名前を呼ぶと、膝を落としてしまった僕に視線を合わせてくれた。
その瞳に届きたくて近付きたくて、両手を差し出す。
触っちゃいけない。とどこかで誰かが警告している。
ここで逃げなければ後戻りできなくなる。と。
でもそれも、心臓の音で聞こえない事にして意識の奥にしまった。
_一人ジャ何モデキナイクセニ_
影がささやく。
顔の高さで広げたまま動きを止めた僕の両手を見て、不思議な顔をしながら掌に頬を寄せてくれた。
優也さんの頬が触れたところから熱が伝わる。
びりびりする熱が刺激になって、背筋がぞくりとした。
欲しい。
溶かされそうなこの熱が。
この、人が。
我慢できなくて自分の掌ごしに優也さんの頬にキスをした。
「昨日の今日だから、ゆっくり休ませてやろうと思ったけど気が変わった。」
腕をぐいっと掴まれた。
それなのに、がっくり膝が地面についてしまって立ち上がれない。
苛立ったように優也さんが僕の両脇に手を差し入れて上体を起こす。
両腕で女の子を抱えるように抱き上げてしっかりした足取りでマンションに入っていく。
お姫様抱っこ…
「ちょっ、降ろしてください」
「歩けないくせに生意気言うな。黙ってつかまってろ」
そう一喝されて抱えられた体を揺すられて落ちそうになって
慌てた僕は両手で優也さんの首につかまった。
ほんの少し、優也さんが笑った気がした。
こんなに怒った顔をしているのにどうしてそう思ったのか自分でもわからないけど。
この選択は間違っていなかったようだ。
本当は、こんなに近くにいる事が間違いなのに。
運ばれている恥ずかしさに身を捩りながら、本気で逃げるつもりなんて毛頭ない自分が恐ろしかった。
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