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夜–3
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びしょ濡れになってしまった服を全てはぎ取られ
シャワーで軽く体をあたためられてからタオルにくるまれて
僕はまた抱えられてバスルームから移動させられた。
沈黙が恐い。
いつ、放り出されるのだろう。
暖かい胸に抱えられながら、震え出しそうな体に力を入れる。
捨てようとしている人の顔を見るのは恐い。だから見えないように笑顔を貼付ける。
目を細めてしまえば表情の機微は見なくてすむ。
「あのっ、お腹、すきませんか?」
少しでも長くこの人と一緒にいたい。
そう思うのはわがままだろうか。
きっとここで過ごせる時間は長くない。幸せだと感じる時間がそんなにもらえるはずないんだ。
この提案が蹴られたら、今度こそ一人で帰るタイミングだと思おう。
「そうだな。でもまだお前はわかってないから」
ぽいっと体が投げ出される。
ベッドの上に。
これはどういう意味?
「愁。お前は俺のものだ。今朝そう言ったの覚えているな?」
あれは、はずみで。
だって、そう言わなければおさまりがつかなかったから…
組み敷かれ、間近に覗き込まれて仕方なく小さく頷く。
優也さんが自分で大きくつけた首筋の痣を撫でる。
その下には会社でつけられたものがある事を思い出してズキンと胸が痛む。
「ごめんなさい」
無理にそう言うと、顔をしかめた優也さんは
「他人に簡単に触らせたかと思うと腹が立つのは確かだが、謝らせたい訳じゃない。」
難しい事を言う。謝るな、と?じゃあこの罪悪感をどうしたらいいの。
「愁は隙が多すぎる。電車でも会社でも、周りをもっとよく見ろ。」
そう、なのかもしれない。
隙が多いというか、抗える気がしないんだ。
他人にも社会にも、自分にも。
流されている方が波風も立たないじゃないか。
自分さえ黙っていればおさまる事もある。
「お前が嫌なら今すぐこの手を振り払って逃げたっていいんだぞ。」
馬乗りになられたまま顔を真上から覗かれて、頬を撫でられる。
振り払えるわけがない。
この体温がこんなに欲しいのだから。
…
これが好き?好き。という感情と欲しい。という感情はイコールなんだろうか。
そんなはずはない。たぶん。
頬を撫でる優也さんの右手に躊躇いながら自分の手を重ねる。
暖かい。
_お前の手に入るわけないだろう。でもこの男がお前を気に入っている間だけはそんな気分にさせてくれるかもしれない。飽きられるまで遊ばれていればいいじゃないか。_
そう、かもしれないな。
短い夢を見られるかもしれない。
「…優也さんが、すき、です。」
_お前の言う”スキ”に意味なんてないけどな。どうせ意味なんてわからない言葉だ。一生_
振り絞るように言った僕を眉根を寄せて見てる。
この人は、今何を思っているんだろう。
頬に当てられているのと反対の人差し指が、唇をなぞる。
「嘘が下手だな。もう少し世渡りを覚えろ。本音を隠せないなら正直に言った方が身のためだ。」
唇が噛み付くように降りてきた。
強くぶつけられて柔らかい舌が入ってくる。
それに応えられるように僕は口を開けて舌を差し出す。
体に入り込むこの人の熱が思考を溶かす。
ずっと溶けたままでいられたらいいのに。
少しでも多く取り込みたくて優也さんにすがるように腕で引き寄せる。
抱え込んだ温もりは優しく抱き返してくれる。
どんな反応を返したらいいのかわからない。
普通にしていたいのに心臓が収まってくれない。
男同士で抱き合ってる時点で既に普通じゃないんだろうけど…
「何考えてる」
離れた唇から聞こえた声は甘くて、ここにいてもいいんじゃないかと誤解させる。
期待なんてさせないで欲しいのに。
隠せないなら正直に言え?
そんなの、口に出したら取り返しがつかない。
気持ち悪いと思われて終わってしまう。
「優也さんのこと。考えると心臓が破裂しそう、です。」
これなら、本当の事だ。
ふっと笑って背中に腕がまわされて強く抱きしめられた。
「俺のも聞こえるだろ?」
ああ。本当だ。
どくんどくん、と響く音がする。
自分のなのか、優也さんのなのかわからないけどちゃんと2つ鼓動がしてる。
同じ音。
「同じだな。」
驚いて顔を上げる。目を閉じている優也さんはやっぱりすごく綺麗で、僕は急に恥ずかしくなる。
今、同じ音を聞いていたんだな。と。
「暖かい音ですね。」
至近距離で見ていたから、瞳がパッと開いた瞬間に目を背けてしまった。
「愁、俺が嫌いか?」
嫌い!?
とんでもない。
慌てて首を横に振る。
軽い口付けのあと
「愁には悪いと思ってる。お前が望む一夜限りの相手にはなってやれそうにない。とてもじゃないけどお前の事、手放せそうにない。」
独り言のように呟く。
「え?」
下から窺うと、穏やかな顔をした優也さんがイタズラした子供の様に笑った。
「一目惚れなんだ。もう一年も前から。」
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