アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
優也 2
-
「夜中にベランダで見かけたんだ」
泣いてた。とは言わないでおいた。
愁がどう思ったのか知りたくて顔を覗き込む。
見ることがあると思わなかったしかめっ面をしたまま少し考えて
「泣いてないですよ。」
そう言って笑いかけてくる。
いつの事だかわかっているのか、それともベランダで泣くのは習慣だったりするのか。
この笑顔は、造られたものだと本能が告げる。
それでもいい。
それでも俺の気持ちをつかんで離さない笑顔だというのに変わりはない。
「お前を勝手に好きになったのは俺だが、体の相性は悪くないと思うぞ。」
悪くない、いや、かなりいい。だろう。
若い頃ならいざ知らず、一晩であんなに頑張れる事はなかなかない。
本当は、愁の気持ちが伴っていないと意味がない。
つい夢中になってしまったものの、どうも気持ちがつかめない。
正直自分でもどうしてこんなに執着しているかわからない。
それに男相手にこんな台詞、自分でもどうかしてる。
ただ、愁は言われなきゃ気付かないだろう。
聞いて無視していられるタイプでもないはずだ。
考えさせればいい。1日のうちのほんの数分でも俺を思い出せばいい。
「俺は嘘が得意じゃあない。だから嘘はつかない。愁が好きなんだ。」
俺を好きになれ。
ただただ、そう念じて言葉を紡ぐ。
トンっと軽い力で下から愁が両腕を突き出している。
たぶん俺から距離をとろうとしているんだろう。
「そんな冗談、いりませんから。」
きれいにつくられた笑顔で見上げてくる。
ざーっと血の気が引いたような気がした。
こんなに熱心に口説いているというのに相手にもされない、か。
ここまで丁寧に説明してやってもだめなのか。
どうしてわからない。
大人しく俺の物になればいいのに。
どうしてうまくいかないのか。
いっそここで動けなくなるまで抱き潰してしまおうか。
泣かせて縋りつかせて、鎖で繋げてでも自分のそばに置けばいい。
自分の性格ではそこまで出来はしないとしても…
この対応はあんまりじゃないだろうか?
突然親しげにされても困惑するが、こんなに突き放される事はあまりない。
態度はどうあれ、愁の体は正直に反応を示す。
後は体に教えていくしかない。
気を取り直して両手を掴む。
「いつ、冗談だって言った?」
掴んだ両手を顔の横に縫い付けるように押し付けると一瞬、怯えたような表情をして俺を見る。
何かトラウマを抱えている事は間違いないんだろう。
鎖骨につけられたひどい痕も、昨日のあの怯え方も、今日の震えも
そこからきているんだろうと簡単に予想がつく。
ゴクリと自分の喉がなったのがわかる。
目眩がしたかと錯覚する程の色気。
握りつぶせそうに華奢な手首。
怯えてるのがサマになるなんて不幸以外の何物でもないだろう。
どんな育ち方したらそうなるんだ。
この小さな体にここまでのトラウマを刻めた相手を羨ましくさえ思う。
それなら一生、忘れられる事はないのだろう。
「そんな事言ってくれなくてもセックスの相手くらいできますよ。」
怯えを隠して計算された笑顔を向けられる。
押し倒された体勢でそんな笑顔を向けるなんてどうかしてるんじゃないだろうか。
無言で唇を奪うと少し躊躇いながら体を預けてくる。
ひんやりした下唇を舐め回して、歯列を割って入り込み愁の舌を捕まえる。
味わうように吸い上げてやると小さく喘ぐ声が聞こえる。
目を閉じた愁が他の誰かを思い描いているような気がして目を開けさせて名前を呼ばせる。
小さく囁くような呼び方に満足してますます激しく口づける。
愁の頬がうっすら桜色になり、息が上がってくる。
瞳に膜が張ったような鈍い色を写して、とろりと涙が溢れた。
小さく胸が罪悪感に揺れる。
昨日もそうだった。
愁が涙を流すと背骨が折れそうになる。
悲しいような、せつないような。まるで心臓をひっかかれたみたいに。
宥める事もできないのに泣くな、とも言えずに。
何とも心許ない気分。
不安そうに揺らぐ瞳でキスには慣れていない事がわかる。
唇に触れると子供と勘違いするくらいたどたどしい反応をよこす。
そのくせに体だけは熱く濡れて腰を揺らす。
昨夜と今朝の痴態を思い出して体が熱くなっていた。
セックスには慣れていてキスをした事がない。とか
そんな事あるだろうか。
江戸時代の遊女じゃあるまいし。
「ゆ、うやさんっ。」
息も絶え絶えになっている愁の唇から少しだけ離れてやる。
この隙に、とばかりに大きく息を吸って整えて愁は
「今日は、もうっ、仕事が残ってます、から。」
そう無理に笑おうとする。
濡れた瞳の奥に見えるのは欲情した色なのに。
強く吸い上げた唇は痛々しいくらい赤くなって。
そんな顔して誘われてないと思う男がどこにいる?
はいそうですか、って帰してやれる奴がいたら教えてくれよ。
この期に及んでまだ帰ろうと思っているらしい。
なんでわからないんだ。
そんな顔で外になんか出せないんだって。
いくら数分の距離だって、そんな色気だだ漏れで放り出したらどうなるか。
考えただけでゾッとする。
今朝だって迷った。あんなに足腰フラフラで会社にやっていいもんなんだろうか。と。
迷いながら見送って、さっき後悔したばかりだ。
昼時の電話にも出ない、留守電もない。腹を立てながら朝送り出した路地まできてみれば、うずくまって動けなくなっていて。
顔は真っ青、首にはつけた記憶のないキスマーク。幽霊でも見たような顔で俺を見て恐怖に震えだす。
会社でも、こいつの色気にあてられた阿呆がいると気付いて、送り出した今朝の自分を殴りたくなった。
ひんやりした愁の肌は触れれば触れる程、気持ちが遠ざかっているような気がする。
揺れる瞳がみられるのは唇を奪っている間だけ。
手に入れるためにはどうしたらいいんだろう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 155