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欲しいもの
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優也さんが優しい瞳をしてこちらを眺めているのがわかる。
恥ずかしくてとても目を開けられない。
しばらく意識を失っていた間に、後処理をしてくれたようで体はさっぱりしている。
居心地が悪いのは、その腕にしっかり抱きしめられているから。
意識を取り戻さない方がよかったんじゃないだろうか…
”愁が好きだ”
耳障りのいい言葉。聞き慣れない単語。
こんな綺麗な人に好かれて嬉しくない人なんていないだろう。
本気、なんだろうか。
例えば好意をもってくれたとして、どうしたらいいんだろう。
男同士でも付き合うっていうのはあり得る事なんだろうか。
それ以前に、僕は人と…誰かと一緒にいることができるんだろうか。
「愁、起きているんだろう。いい加減に目を開けてくれてもいいんじゃないか」
…この人気付いていてわざとこの体勢でいたのか。
…見かけより意地悪なんだな。
でも、この状況で何て言ったらいいのかわからない。
他人に好意をもたれるなんて考えた事もなくて。恐怖心が先に出てしまう。
とても顔なんて見られない。
「しゅーう、起きない気ならイタズラするけど」
言いながら唇に暖かい物が触れた。
するするっと舐め上げられて口の中に滑り込んでくる。
突然そんな事されると思わなくて、驚いたはずみで目を開けてしまった。
鼻の先に優也さんの黒い瞳。
きゅうっと心臓に血が集まる。
動き始めたばかりのように、急に心臓が脈打ち始めた。
いやいや、これ、なに。
なんでこんな、恥ずかしい反応。
パニックになりそうな僕の心情を知ってか知らずか楽しそうに笑った優也さんは唇を離す事無く更に深く角度を変えてくちづけてくる。
笑った優也さんの瞳は三日月みたいな形になって、柔らかく僕の視線を受け止めてくれた。
この人には僕が一体どんな生物に映っているんだろう。
せめて醜い物でなければいいのだけど。
そんなに真っ直ぐな瞳で見つめないで欲しい。
優也さんは体だけじゃなく、その視線さえ熱を帯びていて…
僕ごと溶かしてしまいそうだから。
外見が溶けてしまったら中から、どろりとした黒い物体が出てきてしまうから。
この人にそんな汚い部分を見られたくはない。
それを隠しておきたいと意識できる程にこの人の存在は大きくなっていたのか。
たったの1晩で体の感覚を塗り替えてしまうほど。
少し触れたらもっと欲しくなってしまうほど。
乾いた気持ちに押し入るようなその熱が心地よくて、もっと欲しくて。
その気持ちが流れてきた所だけが潤うようで。
…すき?
これが、好き?
_オイオイ、勘違いするなよ。
お前が恋や愛に近づける訳ないだろう。スキダ。なんてやりたいから言われただけだ。
まぁ、お前には都合がいいんじゃないか?
昨夜よくわかっただろう。どれだけ自分の体が貪欲にできていて浅ましいか。
試しにすがってみろよ。愛される事は無理でも誰かのモノになっていればその間だけは孤独から解放される。この人がお前に飽きるまで騙されてみれば?その間だけは満たされた気分を満喫できるかもしれない。フツウノヒトみたいにな_
前向きにも聞こえる影の声。そんな提案、初めてに等しい。試しにすがってみろ。か…
「愁、大丈夫か?流石に昨日の今日で無理させた、と思うんだが」
ようやく体を少し離して声をかけてきた優也さんは少し真面目な顔に戻っていた。
確かに体がギシギシするような気がするけど、これって無理したから?
「昨日は酔っていて、今日は僕のせいで…。」
そう言うと何が面白かったのか、肩を揺らして笑い始めた。
真面目な顔から一気に笑った顔に急変した様子が僕の目を奪う。
どんな表情でもこの人の周りにだけはカラフルな色がついている。
また、だ。
心臓が、ばくばくする。
だから、これはなんなの。
こうなると、触りたくてたまらなくなる。
震え出しそうなくらい冷えた掌を優也さんの頬に添える。笑顔のまま、小首を傾げるその仕草に目眩すら覚える。
セックスしたからこうなったのか、こうなったからセックスしたのか。
綺麗な人。中身もきっと綺麗なんだろう。
僕が触れてもいいんだろうか。
そんな事、今更だろうか。
体中の血が沸騰しているみたいに熱くて、苦しい。何かに吸い寄せられるように整った形の唇にそっと自分の唇をあててみた。
さっきまで何度も繰り返していた行為のはずなのに悪い事をしているような気がして、慌てて離れる。
離した唇を無意識に指で触ってみたら、熱を帯びたみたいに暖まっていて。優也さんを見上げるとやっぱり優しい笑顔のまま僕をみていた。
鼓動が早くなりすぎて息ができない。
言葉に出したらこの苦しさから逃れられるんだろうか。
兎に角、何かを言いたくてかすれた声で口から出たのはこんな言葉だった。
「ほしい、です。」
”すき”
そう思った瞬間に、自分の中で何かが壊れた音が聞こえた。気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれないんだけど。
僕の口からは決して出せない言葉。
わかってるつもり。なんだけど、言えない事がこんなに苦しい事だとは思わなかった。
真っ直ぐその瞳を見ることができているんだろうか。
唐突に言われたその言葉がどう聞こえたのか、さっきまで笑っていた声もやんでしまって硬直したままの優也さん。
「…」
こんなに近くにいるはずなのに、視界がぼやけてしまっていて顔が見えない。
無言に耐えられなくて、そこにあるはずの輪郭に触れる。
何か言って欲しくて唇の方向に指を移動させていく。
優也さんの言う、好き。が冗談だよ。でも…
「お前、どんな顔して言ってるかわかってる?」
顔?自分の表情なんて、あっ、笑顔。
笑顔をつくらないと。強張った口元に力を入れようとしたけど、うまくいかない。
優也さんの指が僕の目元に触る。
「泣かせるつもりはないんだ。悪かった。」
そう言われて自分が涙を流しているのに気付いて
「ご、ごめんなさ」
言いかけた言葉が唇で塞がれる。
「お前が泣くと、どうしたらいいのかわからなくなる。」
強く抱きしめられて頭がぼうっとしてしまう。
どうして自分が泣いているのか。
どうしてこの人が困っているのか理解できなくて。
ただ困った事に、こんな状況なのに僕の下半身はしっかり反応してしまっていて
昨夜からの事を考えれば体はこれ以上無理だとわかっているのに
裸でベッドにいる以上、優也さんにばれないはずはなくて逃げたくなった。
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