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契約_優也
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「火野は昔から一族で商いを営んでいて、今でこそ上場した企業だが、元は暴力団を使う会社だった。だから今でもそれを根に持っている連中から恨みを買う事が少なくない。狙われるのはたいがい、経営陣の家族、愛人、恋人。」
腕の中で愁が澄んだ瞳で俺を見上げる。
怖がらせないように、丁寧に説明するつもりだった。
自分達が仕事に集中するには大事な人を1人にしない事だ。秘書だと言って側に置けば自分で守れる。
かつて会長だった祖父がそう言っていた。
「だから秘書室という部署をつくって自分の妻や恋人をその立場に置くようになった。個別に護衛するよりも安全だからだ。この会社の秘密も弱みも、全て詰め込まれた部署といってもいいだろう。当然セキュリティーは万全だが、狙われる確率の高さは一般の社員とは桁違いだ。」
そこまで黙って聞いていた愁が口を開く。
「じゃあ、橘さんも?」
自分が危険な立場だと説明しているのに気になるのは奏介の事か。さっきからヤツの事ばかり気にかけている。確かに優秀であんな姉の面倒を見てくれる優しい男だが…
舌打ちしそうな自分を振り返って冷静に見る。
これはただ、嫉妬しているのか…
こんなに独占欲が強いとは自覚していなかった。
柄にもなく自分から手を出したからなのか、それとも愁だから、なのか。
だいたい愁は付け入る隙が多過ぎる。放っておけば昨日程度ではすまないだろうし、さっきだって声をかけなければ振り払えもしなかっただろう。
何より俺の身近にいるだけで恨みを買う可能性だってゼロじゃない。
そう考えたらゾッとした。
じっと俺の言葉を待つ愁を見てもう一度強く抱きしめた。
秘書室なんて制度、別に必要ないと思っていた。でも愁を手にした事でその考えは大きく変わってしまった。
四六時中、側にいてどんな事からも守りたい。
か弱い女達とは違う儚さが愁からは漂っている。
誰にも傷つけさせたくない。閉じ込めて、飼い殺しにしてでも…
「優也さん、苦し…」
「俺は自分のものは自分の手で守りたいんだ。」
この気持ちが伝わるといい。
「わかり、ましたから。」
腕の中で何か言いたげにもがく愁から手を離したくなくて、少しだけ隙間を空けてやる。
額をぶつけるようにして覗きこむと、泣き出しそうな顔を真っ赤にしている。
「…僕、嘘をつくのもつかれるのも苦手なんです。」
得意なヤツいるのか?
「だから、嘘をつく時には上手についてください」
「俺は嘘なんかっ」
言いかけたら愁が唇を押し当ててきた。
さっきもそうだったが、この違和感。やけに積極的な態度と触れる肌の温度。
昨日に比べて体温が高過ぎる。
「約束、してくれますか?」
何を心配しているのかわからない。が、あまりの真剣さに心がグラつく。
押し倒しそうになって、全く余裕のない自分に笑ってしまう。
「愁が心配するような嘘はつかない。それでいいか?」
言われなくてもするつもりもない。
見透かすようなこの視線から隠さないといけないような事をしたくはない。
真剣に言ったはずなのに、愁は首を横に振った。
「嘘をつかない人なんていません。だから、気付かせないでくれればいいです。騙されたフリはできないから。」
コイツ、何言ってるんだ。
「お前、俺に騙されると思ってるの」
愁は涙を浮かべながら口元だけで薄く笑った。
邪気も欲もないその顔を見て不安が込み上げる。
「それもいいですね。」
ファミレスでサイドメニューを頼むかのように軽く言い、不自然にニッコリ微笑んだ。
その笑顔に見惚れそうになって、愁が震えているのに気付く。
「俺が怖い?」
「怖い、です。人間はみんな何考えてるのかわからない。」
人間が怖い?
どうやって生きてきたんだ。
あの可愛い笑顔を振りまいて上手く生きてきただろうに…
体の傷跡!
あれか、あれのせいなのか?
「愁、お前…」
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