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契約_3
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優也さんが何かを言いかけた時、ノックと共に橘さんが入ってきた。
「遅くなりました。お話はまとまりましたか?」
爽やかな彼はきっとどこででも重宝されるだろう。
僕も同じように仕事ができるだろうか。
…
でも、ここで踏み出さなければきっと優也さんを失ってしまうんだろう。
よくわからないけど、せっかくまた会えたんだ。
昨日みたいに無力に悲しむのは、もういやだ。
これってチャンスなのかもしれない。
確実な約束を取り付けておけば少なくとも毎日顔は合わせられる。
意を決して口を開く。
生意気に聞こえないように、嫌われないように細心の注意を払いながら。
「はい。何もわかりませんが、精一杯勤めさせていただきますので何卒よろしくお願い致します。」
その答えに優也さんが驚いた顔をした。
「本当ですか?ありがとうございます。こちらこそ精一杯サポートさせていただきますので気長にお付き合いください。」
橘さんは本当に喜んでいるようで、両手で僕の手をとって力強く握手をしてくれた。
「奏介、俺のお守りから解放されるのがそんなに嬉しいか。」
ムスッとした顔で横から握手の上に手を重ねる。
全く気にしないようにニコニコと笑顔を浮かべた橘さんは、ますます強く僕の手を握って
「優也さんは本当に人使いが荒いですからね。覚悟してくださいよ。秘書室は全員揃う事はまずありませんが、僕達はよくご一緒する事になると思います。早速ですが、出向のご確認と捺印をお願いしてもよろしいでしょうか。」
早口でそう言われ、差し出された書類を読む。
出向といってもこれは、僕があの会社を辞める事が前提の書類だ。
一歩踏み出すために、準備してくれたもの。
そう考えると仕事上の書類でもなんだか嬉しい。
「それでは来週からこちらに出向という形になります。取り敢えず一度フタミに戻りましょう。」
ガタンと勢いよいソファーから立ち上がった優也さんが僕の腕を引っ張る。
何て恐い顔してるんだ、この人は。
やっぱり僕じゃ不満なんじゃないだろうか
「え、連れ出してきたのは優也さんなのに本当は反対なんですか?」
驚いて考えていた事がそのまま口から出た。
それを聞いた優也さんは、こぼれ落ちそうな程に目を見開いて
「いや、そうじゃない」
と言った。
安心した僕は優也さんの頬に手を添えて
「じゃあ、そんな怖い顔しないでください」
そうお願いした。
その手を優也さんがとって僕を優しく見てから
「そうじゃなくてお前、熱あるぞ。無理するなよ。」
と微笑んだ。
体温計ったわけでもないのに、そんな事言ったら触れ合った事がバレバレだ。
背後で橘さんがふふっと笑った気配がして少し恥ずかしくなった。
「もう明日からこっちでいいだろう?」
「来週の月曜日が最速です。これでも随分無理しましたよ。仕事の整理と先方に説明も必要でしょう。彼を手放してもらわなくてはいけませんから。茉莉花が僕を迎えにきた時には半年ほど猶予をもらいましたし、他の役員の方々も本来はそれくらい時間をかけておいでです。南野さんが優しい方でよかったですねぇ。」
優也さんが小さく舌打ちする。
「そんなにご心配でしたら同席なさいますか?経営者会議で問題になりますが。」
反比例するように楽しそうな橘さんがわざとらしく肩をすくめる。
「奏介、覚えてろよ。愁、今後そんな体調で出社してきたら押し倒すからな。18時に迎えに行くから定時で出てこい。あと携帯。」
人前で押し倒すなんて…
赤くなった顔を隠すように俯いて目の前に出された掌に鞄から出した携帯を置く。
僕の携帯電話が何か操作されてから返される。
不思議な気持ちで見ていると携帯を持った手が引っ張られて抱きすくめられた。
「ちょっ、橘さんが笑ってますよ。」
「いいか?電話には必ず出ろよ。」
わかってるな。と耳元で囁かれて胸の奥が揺れる。
電話、出なかった理由は怒ってたから。じゃないんたけどな。
ぼんやり考えていた僕の胸ポケットにライターのような物が滑り込まされる。
「今日から俺の側を離れる時はこれを必ず持ち歩け。逃亡防止だ」
「逃げませんよ?」
ふふんと鼻をならして優也さんが僕を見下ろす。
「そんなのまだわからないだろう?」
「それはGPSですよ。あなたのことが余程心配なのでしょう」
笑いながら橘さんが言う。
やっぱりつられて僕も笑ってしまう。
こんなに楽しくしている自分がなんだか不思議だ。
あの美人、怒るだろうな。
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