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苛立ち_優也1
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確かに俺は今日、浮かれていた。
失敗は許さないと言い含めて交渉に行かせた奏介から、うまく愁を貰い受けられそうだと連絡をもらってすっかり上機嫌になって。
数時間前までここにいた愁を思い出して頬が緩むほど。
一年間も見るだけだった相手に触れて、舞い上がっている事に自分でも気付いていた。
ささいな事に嫉妬して縛り付けたくなるくらい夢中になっている事も。
昨夜、急に部屋からいなくなった愁は何度電話しても呼び出し音が鳴り続けるだけだった。
頼んだ荷物をアヤに渡して部屋に上げた奏介に怒って当たり散らした挙げ句
「しつこい男は嫌われますよ。」
と呆れられる始末。
八つ当たりした事がそんなに珍しかったのか
「そんなに怒るほど大切なら秘書にでもすればいいのに。」
そう笑われた。
いくつになっても子供扱いしてくるモト家庭教師は俺の扱いをよく知っている。
言われて思い出した。
秘書室の存在。
考えてみれば、奏介が茉莉花と毎日一緒にいるのはそれのおかげだ。
だが、秘書室に入れるというのは同時に会社にも世間にも関係を公表するようなものだ。
相手が男だというのは、俺にとって問題はない。でも愁はどうだろうか。
あの容姿ならお姉様方には大人気だろうし、女が苦手って感じでもない。
未経験じゃなかっただけで、ゲイだとは考えにくい。
こっち側に引き込んでいいのかどうか…
一度このグループの秘書室に入ったら、本人の意思に関係なく関係者の記憶に長く残ってしまう。
もし俺から離れて行ったとしても、きっとそれは一生ついてまわる。
どこへでも連れて行く事になり、これまでとは比較にならない程多くの人目に晒される。
大袈裟に言えば、権力者の寵愛を受ける人物というのはそれだけ目立つのだ。
特別に目をかけている、と公にする事で周りから余計な嫉妬を買う事も詮索をされる事も、無断で手を出される事もほぼなくなる。
弱みを連れている訳だから己の危険も増えるが、一番大切な人を守りやすくもなる。
この会社で秘書室に入れるというのは相応の覚悟がいるのだ。
残念ながら、そうまでしたい相手にはこれまで出会えなかった。
恋愛対象が仕事を超える存在だった事はないのだ。
権力が欲しかった訳じゃない。確かな居場所をつくりたかった。
結果的に組織のトップに立つという大きな力を得る事になってしまっただけ。
何も欲しがらずにがむしゃらに仕事をしてきたんだ。
1つくらい欲しい物を欲しいと言ったって誰も文句は言わないだろう。
側にいて守りたいから秘書室に入れる。
創設された当初の目的そのものじゃないか。
考えてみればそれが一番しっくりくる形だ。
そう判断した俺は一晩かけて手筈を整えて迎えに行かせる事にした。
愁の社員証を見なければ名前を思い出す事もなかっただろう会社名。
それが子会社の名前だと気付いたのは先月の議事録の一つに目を通したときだった。
基本的に子会社の事は各々の社長に任せたままにしてある。その方が余計な人員を必要としないからだ。定例会を開かせて議事録を提出させる程度。
祖父の代でグループに組み込まれたんだろう。関わった事のない会社だった。組織を大きくしようと躍起になっていた祖父は聞いた事もない小さな会社をいくつも傘下に加えて組織の巨大化をはかった。そのおかげで今のファイヤーグループがある訳だが、古参の企業とはトラブルも多く、就任当初は若造が。と馬鹿にされる事も少なくなかった。
まぁ会計上、倒産寸前になったら手を貸すわけだが…
都合のいい事にフタミは完全子会社でその上、自社ビルを購入したばかりなのに経営は傾きかけている。外面重視で古い体質を変えられない会社の典型だ。つつく要素と、その会社が欲しがりそうな餌はいくらでも準備できる。
引き換えに何を差し出したって惜しくはないのだから。
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