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夢うつつ_1
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ゆらゆら揺れる意識の中で、確かに熱い体温を感じた。
自分の体から発生するあいまいな温度じゃなくて、もっと確かな温度。
熱くて優しくて押し付けがましいのに嫌じゃない。
さっきまで、そんな都合のいい温度を体中で受け止めていた。
その温度をさがせなくなると、意識は曖昧になって世界はモノトーンに変化する。
逃げても逃げても正体のわからない柔らかな塊がじわじわと迫ってきて押しつぶされていく。
苦しくなって叫ぼうとした喉の奥にその塊は侵入してきて叫び声を出せなくする。
モノトーンの中に埋め込まれていく。
声も出せない、体も動かせない。
昔から熱が出た時に繰り返し見る夢。
どうしたらいいのかわかってる。
早く目を覚ませばいい。
それがわかっていて動けない。体調不良って厄介だ。
自分の体調くらい管理していたつもりだった。
風邪だってここ何年も引いていなかったのに、こんなタイミングで熱を出すなんて。
情けない。
うなされて何度も目が覚めて
その度に頭を撫でられ、冷えピタと氷枕を交換されて
「大丈夫だ」
と言われた。
あれは優也さんの声。
何度目かに目が覚めた時にはもう室内は明るくなっていて
夜が明けた事を知る。
広いベットに一人で眠っていて、自分の部屋じゃない事に驚いた。
そうか、優也さんの部屋だ。
うっかり薬を飲んでしまった僕は襲われる寸前に助け出された。
そしてそのまま優也さんのお世話になってしまったようだ。
嫌悪感で体の奥から震えていた自分が優也さんに抱きかかえられた瞬間に眠くて堪らなくなった。
助けてもらって連れて帰ってきてもらったくせに、状況も空気も読まずに勝手にサカって
そして、自分に都合のいい事を言って意識を飛ばした。
呆れられているだろうな。
こんなに自分勝手になっていたのは体調不良と、飲まされた睡眠薬のせいだと思い込みたい。
のどが乾いているのに気付いて起き上がる。
べッドボードの時計を見ると、もう昼時だ。
随分とよく眠っていた。会社に連絡を、と考えて思い出す。
どちらにもする必要がない事を。
フタミに残してきた荷物は処分してもらおう。それさえ伝えればもう行く必要はないだろう。
秘書業務に関しては、社長自ら看病をしてくれたんだ。どんな状態か雇用主が一番よく知っている。
リビングの冷蔵庫を勝手に開けてスポーツドリンクを流し込む。
熱が下がりかけているんだろう。冷たさと甘さが心地いい。
「起きたら電話しろ①」
机の上に不思議なメモ。
①って何だ。
その隣に受話器が置いてある。
①ってこれ?短縮ダイヤルか何かだろうか?
恐る恐る押してみるとワンコール鳴るか鳴らないかで相手が電話に出た
「愁、体調はどうだ」
「すみませんでした。ご迷惑をおかけしてしまって。」
誰に向かっている訳でもないのにぺこりと頭を下げる。
下げた頭が突然何かにつかまれて
ひいっ
と情けない声がでてしまう。
顔を上げるとなぜか私服姿の優也さんが携帯電話を片手に満面の笑みでそこにいた。
い、いつの間にこんな所に?
ふわっと、胸を撫で上げられるような暖かさに突き動かされて
目の前の優也さんの胸の中に飛び込んだ。
「なんだ、ちょっと買物に出ていただけなのにそんなに寂しかったか?」
覗き込まれたその顔はいたずらに微笑んでいた。
ドキンドキン
鼓動が動き始める。ぼんやり見つめたまま、僕は頷いていた。
「寂しかった、です。」
きっとまだ熱があるに違いない。
こんなに体が火照っているのだから。
優也さんのパジャマを上だけ着せてもらったんだろう。明らかにサイズが違いすぎていて、少し動くとはだけてしまいそうなくらいにぶかぶかだ。
腰に手を回してぎゅっと抱きつくとパジャマの裾があがって太ももが露になった事に気がついた。
ワンピースを着ているようで少し恥ずかしくなる。
視界がふわりと揺れて、地面から足が浮き上がって抱き上げられたと知る。
「わっ、優也さん?」
無言のままベッドの上に移動させられて顎をつかまれ、唇を重ねる。
心臓が飛び出してきそうで落ち着かない。
苦しくて優也さんを見上げると、両手で頬をはさまれた。
「そんな顔して、病人のくせに俺を煽るな」
そう言われて小さく笑ってしまう。
僕より苦しそうな顔をしているのは優也さんなのに。
僕を見て困った顔をするのは優也さんの方なのに。
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