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休み_1
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遠くで人の声がする。
「…せる。…だから悪かったって。」
「僕が怒ってるのはそこじゃありません。体調不良だったのを知ってて抱き潰すなんてどういうつもりなのかって聞いてるんです。」
ギョッとして飛び起きる。
この声、奏介さん?
昨日激しすぎたのか痛む腰を押さえながら閉まっている扉に近付く。
昨日とは違うトレーナーみたいな上下を着せてもらっていた。
これ、サイズピッタリだ。
ひょっとしたら昨日は、これを買いに行ってくれていたのかもしれない。
音をたてないように扉を少し開けて聞き耳をたてようとした。
ら、扉を勢いよく開けられた。
ゴツン
扉に近い所にいた僕は派手に額をぶつけた。
「あ。す、すみません。あの、おはようございます。」
衝撃にうずくまって下を向いたまま挨拶をした。
おはようの時間かどうかわからないけど。
「わぁ、大丈夫?ゆうくん、乱暴だから。ちょっと見せてください。」
近付いてくる長い足が目に入った。
ふわっと前髪をかきあげられて、息があたって緊張してしまう。
「だ、大丈夫です。」
慌てて笑顔を貼り付けると、その様子をジッと見られている事に気付く。
あれ、2人とも私服だ。何か僕、場違いじゃ…
「愁くん、ちょっとだけ髪を切りましょうか。来週にでも手配しますね。」
前髪を梳くように撫でている奏介さんが笑顔を向けてくる。
ううっ…
爽やかすぎて眩しいです。
柔らかい眼差し、優しい手付き、するすると撫でられると、動物にでもなった気分。
「いつまで触ってるつもりだ。」
頭上で低音が響く。
空気が動いた気がして身を竦めると奏介さんの手首を掴み、後ろから抱きすくめられた。
「いたたっ、ゆうくん、痛いよ。」
顔をしかめたのを見て、優也さんが鼻をならす。
奏介さんは掴まれた手と反対の手を伸ばしてきた。
僕を通り越して優也さんの頭をポンポンと撫でる。
それはとっても自然な仕草で。
「よかったですね。」
「そうだな。」
そう言う優也さんの声も不思議と穏やかだった。
「ったく、いつまでたっても子供扱いしやがって。オヤジかお前は。」
「ひどいなぁ。お兄ちゃんでしょ。」
2人のやり取りに声を上げて笑ってしまう。
「少しは元気になったみたいですね。」
柔らかいトーンで改まって言われると不甲斐なさに
情けなくなる。
足元のラグをじっと見つめた僕をくるりと振り向かせて、頭をなでられる。
「余計な事考えるなよ。」
黒い瞳に心配って書いてある。
思いがけない表情に小さくふふっと笑ってしまう。
だって、こんな大きな獣が他人の心配なんて。
「忙しくなるから早く体調戻せ」
わざとらしく渋い顔をした優也さん。
そして言いにくそうに奏介さんが切り出す。
「あと、ごめん。携帯電話、水没しちゃって。同じ機種はもう出ていなくて使いにくいとは思うんだけどね。解約はまだしてないから機種変更にもできるよ。」
とCMで見た事のある最新型が手渡される。
長年使っていた携帯が水没…。
一体何故…。
渋い顔をしたままの優也さんが睨む。睨まれるような事してないはずだけど。
「ほら、ゆうくん、誤りなよ。つい水槽に落としちゃったって。」
「な、ええーっ?」
携帯って、携帯って、つい水槽に落ちるもの?
「手が滑ったんだ。悪かった。」
ちっとも悪いと思っていなさそうな仕草に、あきれながらも笑ってしまって笑いながら返答する。
「どんな冗談ですか。ひどいですね。」
とは言っても
番号が変わったからって不便はそんなにないかな。
マメに連絡を取り合うような知人も特にいないし。
「…夏彦、という名前から着信があった。」
なつひこ
ナツ、ヒコ
アノヒトの名前。
パリパリっと音がしたと同時に首がしまったような気がして、喉がヒュッと鳴ったのがわかる。
ノイズがかかった思考回路に迫ってくる腕を思い出す。
乱暴に扱う腕に引きずられるように傷付ける為だけに連れて行かれるあの暗い和室。
苦しいばかりの行為と、命の危険と隣り合わせの時間。
取り繕いたいのに声が出てこない。一瞬で言葉を忘れてしまったみたいだ。
嫌な汗が噴き出してきて目の前が暗くなる。
世界は色を無くして、さっき見た悪夢みたいにモノトーンになっていく。
足元からガラガラ崩れるみたいに足場が悪くなる。
手も、足も、感覚が薄れて動けなくなってしまう。
バランスを崩しそうなって、優也さんの腕に抱えられているのを思い出す。
見上げようとすると、抱き上げられてベッドに乗せられた。
「もう少し眠れ。」
「そう、だね。ゆっくり休んでね。」
タオルケットをかけてもらって、何も言えないまま寝かし付けられた。
2人がいなくなると室内は急に静かになって、空気が淀んだような気がした。
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