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遅くない_1
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「愁、風呂…眠ったのか?」
優也さんが呼んでる。
ふらふらと立ち上がって近付くと、黒い瞳が心配そうに見下ろしている。
手が届くような気がしてた…
欲しくて堪らなくなっているのに、側にいる事すら諦めないといけない。
話が本格的に動く前に。誰かに、優也さんに迷惑がかかる前に。
消えてしまわなければ。
最初から欲しい何て思わなければよかった。
好き、だなんて気付かなければよかった。
そんな事、思う資格は僕にはないのに。
この気持ちを消してしまわないと辛いのは自分だ。
「愁、何考えてる。酷い顔してるぞ。」
酷い顔。
そう、もともと酷く醜い顔なんです。
生まれつきだから仕方ないんです。
それでも人を、優也さんを欲しがったりして
その優しさに縋ろうと手を伸ばしたりして
本当にごめんなさい。
優也さんがしゃがみ込んだままの僕の腕を引き上げた。
その体温に飛び込みたくなる足を踏ん張って、優しい手をほどく。
「ありがとう、ございます。」
そう口先で言って、顔も見ないで足早にバスルームへ向かう。
パジャマだけじゃなくて、パンツまで見たことのない物を履いていた事に驚く。
こんな所まで着替えさせてくれるなんて本当に面倒見がいいんだ、な。
優しくて、暖かくて、強い人。
僕が初めて好きになった人…
これ以上かかわって汚しちゃいけない人。
出会ってたったの数日だ。
まだ、大丈夫。
きっと忘れていけるはず。
とりあえず遠くに。
生活するだけで精一杯になるだろうから…
高めの温度でお湯を溜めてくれたのか、強張った体に心地良い。
幸せな夢だった。
本当に。
忘れていける自信がないほど、優也さんの事で自分の気持ちがいっぱいに溢れていて
まさかこんな気持ちを知る事になるなんて考えもしなかった。
こんな夢がみられるなら、痴漢にも感謝した方がいいかもしれない。
「愁、入るぞ。」
返事をする間もなく、裸の優也さんが入ってくる。
「ちょ、優也さんっ」
バスタブの中で慌てて背中を向ける。
このままだと、丸見えだし。
僕の事も、優也さんの事も。
「なに、その反応。」
後ろを向いた僕のうなじを撫でる。
振り向かなくても優也さんが笑い出しそうな顔をしているのがわかる。
「だって、優也さん、裸…」
「そりゃそうだ。服着て風呂に入る習慣はないからな。愁だって、ああ、そうか。脱がせてやらないといけなかったな。」
笑いを堪えるような声で話しかけてくる。
「な、なに言って…え?」
訂正しようと振り向くと、声音とは逆に真剣な顔をした優也さんとぶつかった。
ぎくっとした。
僕の気持ちの中まで覗き込めそうな黒くて澄んだ瞳。
ゆっくり近付いて軽く啄まれる。
「教えてくれよ。愁が今、何考えてるのか。」
俯いた僕の背後に優也さんが入ってきてお湯がざーっとこぼれた。
背中から強く抱きしめられて、素肌に力が込められる。
両腕の下から優也さんの両腕が僕の体を捕まえていて膝の上に座らされる。
「は、離してっくださ、いっ。あ、汗かいてて汚いっ、から。」
こんなに触れ合っていては決意がにぶる。
僕はもうこの夢から醒めないといけないのだ。
「ひゃうっ」
首筋から耳を舐め上げられた。
「お前は汗も甘い成分でできてるんだな。」
耳朶を噛まれながら聞く優也さんの声はどこか遠くで聞こえているみたいでまた夢のなかにひきずりこまれる。
もっと欲しいと、思ってしまう。
もっと、もっと欲しい。どこかで願うように思って。
それは離れなくてはと考えれば考える程強くなる願い。
「じゃ、じゃあ、お風呂でてから…し、しましょう」
震える声でそう伝えて、笑顔を貼付けて優也さんに向ける。
バシャン
「うぐっ、んんっ」
ぐるりと向きを変えられて強く唇に噛み付かれる。
唇を舐め回されて、ぬるぬるになった所に舌が差し込まれる。
それに応えたくなってしまう体を理性が抑える。
だ、だめだってば。本当に、もう。
ばしゃばしゃとお湯を跳ねながら優也さんの胸をたたいて遠ざける。
唇が離れて大きく息を吸った途端にまた唇が塞がれる。
「んんっ、ちょ、ゆう、やさ、んんっ」
ちゅっ、じゅるっ、と音をたてて舌に吸い付かれて体の力が抜ける。
優也さんの口の中に取り込まれた僕の舌は、暖かい海の中につけ込まれたみたいにじんわりと温度を上げられその場所を味わうように勝手に動く。
「んはぁっ、んふぅっ…」
うっすら目を開けると優也さんの強い光を宿した瞳とぶつかる。
口の端から唾液がたらたらと溢れてお湯に溶けていく。
だめだ…
こんなの、こんなのっ。理性がもたない。
「俺はお前を自分の物にすると決めたんだ。お前はそう簡単に手放してはもらえない立場になった。逃げようなんて考えてるなら今のうちにあきらめろ。」
唇を離した優也さんが冷たい声でそう言い放つ。
そんな声を出しても、その瞳には優しい色が映ってる。
優しさに慣れていない僕は、どんな対応をしたらいいのかわからない。
ただただ、この人が欲しいだけ。それだけでその頬に向かって両手を伸ばす。
_触れていいのか?オマエはここから消えるつもりだろう?_
そうか、そうだった。
すっかり忘れたフリをしていた。
優也さんの頬に手が触れる前に腕を引っ込める。
それをじっと見ていた優也さんは苦い顔をして
「…そんなに気になるか。」
と僕の肩を掴む。
ぎりぎりと音がでそうな程強くにぎられて痛みに顔をしかめる。
「い、たい、優也さん。な、んの話ですか」
苦い顔の上に嘲るような笑いを浮かべて、肩を揺する。
「ナツヒコ、だ。お前が今考えているのはそいつの事だろう。」
熱いお湯に浸かっているのに鳥肌がたった。
優也さんの口からその名前が出る事に嫌悪感を感じる。
ぎりりっ、と肩に衝撃が走って目をやると優也さんが噛み付いている。
肉食獣が牙をたてるように犬歯をつきたてて、横目で僕を見ていた。
「っう…ゆ、うやさん…」
誤解です。って言いたかった。
そんな人の話をするのは嫌です。と。
でも何も言えなかった。
熱い熱い唇が、言いたい言葉と言いたくない言葉を持って行ってしまったから。
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