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暗い夜 優也_2
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愁は都内だけで9回引っ越している。
13年間トータル、と言っても、ちょっと多すぎるだろう。
よっぽどご近所トラブルを起こしやすいタイプか、何かから逃げている。としか考えられない。
ナツヒコから携帯電話に着信があった夜。
愁は高熱を出して電話に出られる状態じゃなかった。
そのままマナーモードにして朝まで放置しておいたのだが、一晩で着信履歴は100件を超えた。
異様な電話。
誰がどう考えてもおかしいだろう。
背筋に冷たいものを覚えた。
途中でいいから、すぐに送ってくれと頼んで調査途中の書類を入手した。
こんなに自分が執着しておいて何だが、未だに名前くらいしか知らないのを思い出したんだ。
身辺調査は秘書室に入れる最低限のルールだ。
その他の規則なんてあってないようなものだが、これだけは従わない訳にいかない。
仕事もプライベートもほぼ一緒に過ごす事になる相手。
となると、社内の極秘事項も他人に言えない性癖も個人秘書には筒抜けに近い。
だから、誰とどこでどう関わっているのか把握しておく必要がある。
ライバル会社のスパイでした、じゃ笑い話にできないからだ。
奏介が見込んでいる探偵会社とは長い付き合いで、中途半端な仕事はしない。
それにも関わらず、途中経過を渡すのを拒まれた。
空白の期間があるから調査にはもうしばらくの時間と金がかかる。と。
そう言われて、いくらかかってもいいから調査を続けてくれるように依頼して途中報告という形で奪うように持ってきた数枚の書類と写真。
コンビニのレジで無表情に仕事をしているアルバイト姿。今より少し幼く緊張した表情の写真は履歴書のものだ。
今と変わらず可愛い顔をしている。
が、何か欠けているようにも見える。愁を数日見ていてこんな無表情は見なかった。
あの鉄壁の笑顔の下に隠している顔なのかもしれないし、別の理由があるのかも…
「愁、俺の秘書になるのイヤなのか?」
荷物をまとめようと鞄を取り出した背中に話しかける。
「そんなことっ、ないです。でも、僕がいたら迷惑がかかるから。結局、かけちゃったけど」
ごめんなさい。とうなだれる愁を後ろから抱きしめる。
「わからないのか。お前がいない事の方が迷惑だ。俺を不眠症にするつもりか。」
回した腕に水滴が落ちる。振返らないからわからなかったが、また泣かせているんだな。
後ろから顔を見ないように涙を指で拭ってやって、さらさらの髪にくちづける。
「待ってるから早く支度してくれよ」
頷いた愁の体から震えは消えているようだった。
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