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真夜中の_1
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ドンッ、バサッ
バスルームから優也さんと出て行くと、目に入ってきたのは玄関に積み上げられたダンボール。
「愁くん、これ詰めちゃうね。」
さっき着替えを入れていた僕の鞄ごとダンボールに入れられる。
状況のわからないままダンボールの隣にいる奏介さんに、ふらふらと近付いていく。
何が始まっているんだろうか。
ここは僕の住んでいる部屋のはずだけど…
「服は、ここにある物が全部かな。本が随分あるみたいだね。全部必要かな?」
「あ、あの?」
質問しようとしたら、首に後ろから腕が回ってきた。
「引っ越しだ。捨てられない物だけでいい。生活必需品は家にある。」
たっぷり5秒は固まってから、僕は叫んだ。
叫んだ口に人差し指が当てられる。
「シーっ。真夜中だよ。近所迷惑だから静かに」
えっと…
真夜中だろうと家の壁が薄かろうと、いつだって、どこでだって奏介さんは爽やかなんですね。
僕、ちょっとクラクラします。
「…え、あの、引っ越しって」
「この部屋は解約されてる。家にこい。」
解約…?そんな、誰が…?
「アノヒトが?」
固まった僕を見て動作を止めた奏介さんが、僕に目線を合わせて屈み前髪を撫でる。
スルスルと指で梳かすようにしながら話しかける。
「心配ないよ。ゆうくんは忙しい。それに付き添う愁くんは、遅かれ早かれ一緒に住む事になる。予定より早まっただけだよ。本当はしばらく俺と一緒に住んで色々準備を整えてから、の予定だったんだけど、ゆうくんが…」
「オイ。誰がそこまでばらしていいって言ったよ。…奏介、近い。離れろ。」
前髪を撫でてくれていた指を払って、僕の体は優也さんの胸に抱え込まれる。
その動きに奏介さんが爆笑して、僕は赤面する。
「くふっ、ふふふっ、ごめんごめん。」
「笑い過ぎだ」
そう言う優也さんの耳が赤くなっているような気がする…
何がどうなっているのか知りたくて顔を覗き込む。
目が合うと、ぷいっとそらされてしまった。
「…仕方ないだろう。愁には隙が多すぎるから、俺の目の届かない所で生活させるのは反対だって言ったんだ。」
「それだけ?短期間でも俺と一緒に住まわせるの反対だったんでしょ。そんなに必死になった所、今まで一度も見せた事なかったのにね。」
奏介さんがお茶目に笑いながら言うのを見ながら、大袈裟にため息をついた優也さんはあきらめたような仕草で僕に向かい合う。
「愁、引っ越し先、自分で選べ。愁の選択にまかせるから。俺の部屋か、奏介の部屋か」
「は?なんで…」
ちょっと、全く意味がわからないんですが。
これって僕が空気読めないから?
それとも、考えたくはないけど、やっぱり…
面倒だから、とか。
「…ど、して…さっきの話は嘘、だったんですか?どこにもやらないって、一緒に帰るって…」
ああ、情けない。声が震えちゃってるし、視界がぼやけてる。
僕は、問いつめる事もできないのか。
ポタポタっと床に水滴が落ちる。
「どこにもやらない。でもお前は俺より奏介と一緒にいたいかもしれないって…」
「なに、それ。僕は、優也さんと…」
ぎゅうっと目を瞑る。
それを隠すように抱きしめられた。
「泣くな。俺の聞き方が悪かった。」
「ちゃんと一緒に帰ってください。じゃなきゃ、僕はまた逃亡しますからっ」
絶対なんか、間違えてる。
僕が逃亡するかどうかなんて優也さんを脅す文句にはならないだろうに。
「ふふふっ。それは恐いねぇ。ゆうくんが怒りまくって各所に雷を落とすのが目に見えるようだよ。お願いだから逃亡する前に俺に相談してね。」
「は、はい。奏介さん。ありがとうございます」
会話している傍から僕は持ち上げられた。
抱え上げられたんだ。
「わあっ。優也さんっ。引っ越し…」
怒りマークがその無表情に見え隠れしているような気がする。
何をそんなに怒る事があったのか…
「衣類と本、PC。他に必要な物は何だ。」
聞かれて考える。
僕が捨てられない程大切な物って何だろう。
暮らしていくのに最低限必要な衣類
荒れると真っ赤になる肌に塗る為の昔ながらの青い缶に入ったクリーム
…
あれ。
僕の部屋って何があるんだろう。
「…優也さん…」
あれ、この人さえいれば特に必要な物なんてないんじゃ…
「…奏介。あとは必要ないみたいだ。頼めるか?」
僕の部屋の鍵を渡しているのが見える。
「じ、自分で…」
言いかけたその時、奏介さんの携帯電話がけたたましく鳴った。
「はい。…え、ええ?場所は?わかりました。すぐに部屋を出ます」
通話をしながら、奏介さんは僕の着替えを入れた鞄の入ったダンボールを片手で持ち上げる。
優也さんに抱き上げられている僕に梱包された小さなダンボールを持たせる。
「夏彦が逃げました。代行の車を追跡していたのですが、どこかと連絡をとっていたようで高速道路のインターで巻かれました。」
耳を塞ぎたくなる報告。
もしかしたらままこっちに向かっているかもしれないという事…
「そうか。やっぱりな。帰るぞ」
冷えた声音と裏腹に力強く体を抱き寄せられて、こんな状況なのに恐怖は襲ってこなかった。
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