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過去_1
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僕は母を知らない。
産まれてすぐに祖父母に預けられた。
といってもそれはもう、愛情たっぷりに育てられたから不幸と思った事はなかった。
片田舎の小さな一軒家で、広い庭がある古い日本家屋。
祖父母と3人で庭が眺められる縁台がお気に入りの場所だった。
家庭菜園の延長で野菜を育てる祖母と季節の野菜を収穫し、釣り好きな祖父と川釣りに行き、外で遊ぶのが大好きな子供だった。
友達もいたし、好きな女のコだっていた。
祖父母は、母の話をよくしてくれた。
小柄で色白で、お人好しで。僕は瞳の色から髪質まで小さな頃の母ソックリだと。
だから言われ続けた。
悪い人には気をつけなさい。
それは子供に大人が一般的に言うものだと思っていた。
夕飯までには帰ってきなさい。
と同じような意味だと…
10歳の時、母の失踪届は受理された。
つまり戸籍上、死んだ事になったのだ。
一度くらいは会ってみたかった。
写真で見る母は優しそうで、子供を捨てるようには見えなかったから。
アノヒトに初めて会ったのは中学に入学した年だった。と思う。
年の離れた兄がいる。と言われてワクワクしながら祖父の後ろ姿を見ながらついて行った。
今思えば、僕を連れて行くのは反対だっただろう。
祖父は自分の死期を悟っていたのかもしれない。
まだ子供の僕を1人きりにするよりは、と選択したんだろう。
厳つい顔をした自称父親と、冷たい印象の女性。
気まずい空気の中、アノヒトは現れて僕に笑顔を向けた。
「始めまして愁君。僕は夏彦。わぁ~、かわいいなあ。弟がいるなんて知らなかったよ。」
明るく話し掛けられて誤解した。
この人は味方なんだと。
それはうまく仕組まれた罠で、わざと優しくされたのだと後から知った。
数年後、気丈だった祖父が亡くなり、後を追うように祖母が亡くなった。
母が蒸発した理由を2人とも頑なに黙ったまま。
1人ぼっちになった僕に手を差し伸べたのはアノヒトだった。
「家においでよ。家族なんだからさ。」
立て続けに家族を失った僕はその言葉に涙を流して感謝した。
田舎の高校に入学すると決まっていたものの、アノヒトの家から通うには片道2時間と遠かった事もあって。県内では街の方に位置する有名な進学校に編入して、育った町を離れたのだ。
「今日から家族だね。遠慮しないで、何でも言ってね。隠し事はなしだよ。」
アノヒトは笑顔でそう言った。
僕は無邪気に喜んだんだ。
それが全ての悪夢の始まりだとも知らずに。
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