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過去_2
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夏彦の家は、病院を経営する一族だ。
地元で、榎本総合病院といえば知らない人の方が少ないだろう。
地方にある病院にも関わらず、高度医療機器を導入し、有名な医師を招き、その技術を目当てに遠方からも患者がやってくる。
駅からバスも出ていて通いやすい事もあって連日、待合室が集会所になるほどの盛況ぶり。
赤ちゃんからお年寄りまでカバーできる診療科の多さ。
田舎独特の広い敷地内いっぱいに建てられた病院はベッド数も多い。
夏彦は当時まだ医学生で6年間の学生生活を終えたら、ここで研修をする予定だと話していた。
父親と同じ外科医を目指し、夜勤の多い母親を優しく支える夏彦は高校生の自分から見たら、とても大人で目指すべき兄の姿だと思った。
あの日まではー
榎本の家は高い塀にぐるりと囲まれたとても広い屋敷だった。
外からは分からないが母屋、離れの2つに分けられていて、僕は離れにある部屋をもらってそこに荷物を運び込んでいた。襖を開けると小石が敷き詰められた日本庭園があって旅館のようだった。
夏彦とその両親の3人で暮らすには広すぎるその敷地内は、何人かの使用人がいて家事をする必要もなく、毎日食事の用意がされて、部屋は綺麗に整えられていた。
裏手には竹林、その先はこれも榎本の敷地である山が広がっている。
面白い物を見せてあげる。
高校生活初めてのGW。
夏彦にそう言われて、ワクワクしながらついて行った先は、その山中にある小屋だった。
小屋、というよりは造りのしっかりした蔵、といった方がしっくりくるような建物。
外側から見える高い所にある窓には頑丈そうな鉄格子。
入口には南京錠。更に2重の扉に3カ所の鍵。
余りに異様な雰囲気の建物。
恐い話が苦手な僕は出来れば入りたくなかった。
「あ、あの…ここは?」
じゃらじゃらと鍵の束を取り出して手慣れた感じで解錠していく夏彦は薄笑いを浮かべていた。
「ここはね、僕と父さんのペットがいるんだ。逃げたら大変だから厳重にしているんだよ。何せここから出ては生きていけないからね。ここで見た事は誰にも言ってはいけないよ。」
重大な秘密を打ち明けられているような気がして仕方なくついていく。
扉が開くと、埃っぽい空気と薄暗い室内、さらに奥に格子状の枠が見えた。
「ほら、こっちだよ。」
靴を脱いで畳に上がると湿った空気が強まった気がした。
格子に近付いて行くと布団が敷いてあり、モゾモゾとその下で何かが動いている。
人間用の布団に寝かされて厳重に鍵をかけて飼われているペット。
犬?にしては大きすぎるし、逃げたら大変という事は獰猛な生物だろうか。
狼、とか?
「カオリ、お客様だよ。起きてご挨拶しなさい」
その名前には聞き覚えがあった。どこかで聞いた誰かと同じ名前だと…
布団から出てこちらを向いたのは、犬でも狼でもなく、下着姿の女性だった。
「こんにちは。カオリです。よろしくお願いします」
引き摺るように体を折り畳んで三つ指をつく女性。
細い背中を見下ろすような体勢で見えた足は、足首から先が何もなかった。
「…なっ…」
ザーっと血の気が引く。
これは、監禁、虐待…
そんな言葉がグルグルと頭を回る。
身の毛もよだつ、というか…
そんな事より、この人どこかで…
「会いたかったんでしょ。」
薄ら笑いを浮かべた夏彦にそう言われてピンときた。
「…か、あさん…」
自分の口からそう言った途端に涙が溢れた。
呼んだ事さえなかったその言葉。
会った事さえなかったその人物。
祖父母でさえ、突き止められなかった消息。
そして、身元不明人のまま社会的に抹消された人物。
格子に手を伸ばしかけた僕から目を背けた彼女は甘えた声で夏彦に話しかけた。
まるで僕なんて見えないみたいに。
「ご主人さまぁ。早く、早くぅ〜」
「か、かあさん…どうして…」
体を格子に擦り付けるようにする彼女に近付いてみてゾっとした。
焦点が全くあっていないのだ。
「あははっ、あははっ、あっはっはっ」
動揺して座り込んだ僕を見下ろして夏彦は心底楽しそうに笑い出した。
理由がわからなくて、でも笑い続けるその姿が不気味で。
こみ上げてくる恐怖をどうしたらいいのかわからなくて動けなかった。
他人に悪意を向けられる恐怖を生まれて初めて感じて…
そうして、ようやく気付いた。
この家にくる事は仕組まれていた事だったと。
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