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過去_4
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その日は、何を会話したかも覚えていない。
ニヤニヤと僕を見ながら行為を終えた夏彦に連れられて部屋に戻り、気付けば朝の日差しが部屋に入りこんでいた。
考えても考えてもわからないのだ。
どうして、彼女はこんな所にいるのか。
せめて
せめて祖父母の、自分の両親の最期くらい見届けたかったはずなのに。
どうして…
何も聞けないまま次の日から、言われた通り薬を渡し続けた。
何の薬かわからない小瓶を震えながら手渡して、その瞬間だけ彼女は安堵したように微笑んだ。
「ありがとう、しゅうちゃん」
初めて言われた時にはやっぱり涙が出て、泣き虫なのね。と笑われた。
正気に戻ったわけではなく、しゅうちゃん。という名前を口癖のように呟く。
彼女はぼんやりしたままで、空想の中にしか生きていないようだった。
薬が切れると発作のように泣き叫び、もうついていない足の親指が痛いとのたうちまわった。
それが恐ろしくて、薬の量を増やすように頼むと、渡される量は少しずつ増えて行った。
こんな風にでも人は生きていたいんだろうか。
話しかける勇気も、答えも出ないまま、ぼんやり“しゅうちゃん“と呟く声を聞いて過ごした。
夕飯の時刻に母家に戻りたくなかったから。
梅雨入りした頃だった。
「愁、オマエ童貞だろ?カオリで卒業しろよ。」
いつものように薬を渡して出て行こうとしていた。
この家で過ごす時間を少しでも短くしようと入った委員会の仕事で帰宅時間が遅くなったその日。
夜になると、この小屋にやってくる夏彦と出くわしてしまったのだ。
あの日以来、ここで顔を合わせないようにしていたのに。
「な、に言って…その人は、僕の…」
そこまで言って夏彦がジリジリ近付いてきているのがわかった。
格子を背にして追い詰められて逃げる場所もない。
見上げると、鬼にしか見えない表情がニヤリと笑った。
「へえ。僕に逆らうつもりなんだ。最近、やたら避けてるみたいだし。これは躾が必要かなぁ。」
近付いてくる夏彦が恐ろしくてたまらなくて
寒くもないのにガタガタと体が震えた。
「…に、兄さん、や、め」
バシン
「オマエみたいな弟いらねぇよ。」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
目から火花が出て倒れこんで夏彦が馬乗りになって手を振り上げている。
殴られたんだ。
そう分かった時にはもう遅くて、抵抗もできずに何度も頬をはたかれる。
「でも顔だけは昔のカオリに似てなくもない。」
舌なめずりをした夏彦が何を思ったのか、その時の僕にはわからなかった。
「なあ、オーバードースって知ってるか?薬の過剰摂取。カオリの薬、痛み止めと抗うつ剤なんだけど、組み合わせが悪くて心臓発作を起こしやすい。ちょっと量を増やしたりすると危ないんだ。しかもあいつは長期間飲んでて肝臓が弱ってる。薬渡してるのはオマエだから関係ないけどな」
危ないって…
心臓発作、だって?
薬の量を増やしてと頼んだのは確かに僕だ…
そんな、そんな危険なものだったなんて
倒された体勢のまま彼女を振り向くと、薬を手にしている所だった。
慌てて飲むのを止めようと起き上がると鳩尾を強く殴られて、僕は意識を失ってしまった。
死なないで。
どんな形でも生きていて…
かあさん…
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