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時間_1
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白い小石に覆われた日本庭園。
池には赤と白の鯉が泳いでいる。
痴漢から救い出された日に連れてきてもらった料亭で食事をとる事になったものの…
個室に通されて少しした頃に電話がなり、ちょっと待ってろ。
と庭に出された。
誰かと待ち合わせをしていたようだ。
仕事だろうか。
チラッと見えた長い髪。
…
僕のせいで休むはめになってしまったけれど、休日ならやりたい事も会いたい人もいるだろうに。
何だか申し訳ない。
「愁くん。この鯉、餌あげられるんだよ。」
ニコニコと現れた奏介さんが小さな袋からガサガサと中から白い物を取り出して千切って分けてくれた。
ほらほら、と小さくちぎって池に撒くと鯉が寄ってくる。
同じようにすると、優雅に泳いでいた姿からは想像できないくらい大きな口を開けて近付いてくる。
周りの水ごとカラフルな体に吸い込んでいく。
その動きが何だか不思議で、夢中で池に投げ込む。あまり均等にちぎれない麩菓子のような物体はアッという間になくなっていった。
「生き物は好き?」
「はい。祖父とよく釣りに行きました。子供の頃は猫を飼っていて…調べられてますかね。」
小さく笑いながら問いかけると奏介さんは一瞬、真面目な顔をした。
「愁くん。壮絶な少年時代だったみたいだね。恨んでいるかい?」
普段より少しトーンを落とした声音を聞いて、ぎくっとした。
調べがついてしまったんだ…
奏介さんはきっと、あの身辺調査に欠けていた部分を知っている。
汚い存在だとわかって話しかけている。
知られればここにはいられないとわかっていた。
ぎゅっと親指を握りこんで拳にしまう。
「…恨んでなんて…卒業まで面倒見てもらいましたから。」
奏介さんの視線がやわらぐ。
「隠すつもりは、ありませんでした。」
騙すつもりでもない。ただ、ただ黙っていた…
言えなかった…
それは言わなかったと同じ事だ。
「すみませんでした。すぐに出て行きます」
「待って、違うよ。身辺調査はね、少しでも危険を取り除く為に秘書室の全員がされる事なんだ。ゆうくんは、通常の調査よりもっと詳しく調べるように指定してきた。愁くんが逃げ出すと予測して、逃がさないように策を講じようとしているのかもしれないね。心底驚いているんだよ。ゆうくんがここまで他人に興味を示すなんて、想像もつかなかった。」
爽やかな奏介さんが遠くを見るように言って、僕を振返る。
「そんな顔しないで。意地悪してるんじゃないんだよ。」
「すみません…」
慌てて目をそらしてうつむくと前髪に白い指が触れる。
見上げると、困ったように微笑んだ奏介さんにそのまま頭を撫でられた。
「困ったね。ゆうくんが心配する気持ちがわかるよ。でもね、あそこまで執着されているって事は逃げられないって事なんだ。その覚悟はできたかな。」
似たような事を優也さんにも言われている。
でもそれは真実を知る前の話。
「奏介、手を離せ。」
低く唸るような声が背後から飛んできた。
「はいはい。」
呆れたように頭を撫でてくれていた手が離れる。
「愁はだめだ。触るな。」
ピリリとした空気に違和感を覚える。
もしかして、待ち合わせの相手は調査会社の人だったんだろうか。
「話は終わったの。」
「ああ。」
短いやりとりで2人は理解したみたいだった。
わからないのは僕だけ。
「じゃあ、愁くんに聞きたい事があるんだ。中に入ろうか」
奏介さんに背中を押されながら室内に入ろうとする。
「だから触るな。」
優也さんの顔が見られない。
黙っていた事を怒っているだろう。
体からひんやりしたオーラが立ち上っている気がする。これは、怒り…
汚い存在だって知られた結果。
話さなかった事への怒り。
どんな言い訳も通用しないだろう。
唇を強く結んで室内へ向かった。
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