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記憶_2
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また朝がやってきて夜がくる。
絶望の繰り返しに、時間なんて無限にあるような気がしていた。
その全てが僕をいたぶる為だけの存在で、何もかもから見放されているとしか思えなくて。
世界に色はなくなった。
手首や足首に拘束の跡が消える日がないから暑くなっても人前で半袖は着れなかった。
学校でもほとんど話さないから友達もできずに、授業を受けて真っ直ぐ帰宅するだけ。
他にする事もないから勉強だけをして過ごす。
そして
ただただ、この夜が早く終わるようにだけ祈る。
夏休み
ご飯を食べる以外の時間を彼女と過ごした。
課題を持ち込んで。
まともな返答がくる事はほとんどないけど…
話し相手もなく、その時間だけを待つのが恐ろしかった。
自分が途方もなく遠くにきてしまったようで。
帰り道もわからない子供になったみたいで。
1人きりで過ごすのが心細かったのかもしれない。
帰る所なんてもう、どこにもないのに。
「しゅうちゃん、逃げて…」
いつものように、発作が起こる夕暮れ。
彼女は突然そう言った。
真っ直ぐに僕を見て。
「え…?」
すぐにはわからなかった。
話し掛けられているのかさえ怪しい会話しかしてこなかったのだから当然と言えば当然なんだけど。
「まだ、逃げられるでしょう?ごめんなさい。何もできない私を許して…」
「…か、かあ、さん…?」
か細い肩を震わせて泣き出した彼女にかける声もなくて、ただその場に立ち尽くした。
逃げる?
どこへ…
そんなのどこでもいい。
こんな生活から抜け出せるなら。
でも、逃げてどうなる?
僕1人、助かってもいいものだろうか。
「…できないよ。かあさんを、置いて行くなんて」
「薬…減らしているのね。それを頂戴。」
言葉に詰まった。
減らしているのは命を長らえさせようとしているから…
空き瓶に少しずつ貯めている薬は、そろそろいっぱいになる所だった。
「しゅうちゃん、あなたはこんな所にいちゃいけない。お願いよ。じゃないとここまで育ててくれた父さんと母さんに合わす顔がないわ。」
「僕が…わかるの」
信じられない気持ちでそう聞くと、彼女はにこりと微笑んだ。
それは昔見せてもらった写真と同じで。
少女のようだった。
「あなたを、捨てたんじゃないのよ…隠したかったの。大きくなってくれて、本当に…」
「…母さん…」
視界がブレて瞳から大きな粒になって零れた。
ボタボタと音がしそうな勢いで畳に弾けては消えていく。
「ごめん、なさい。本当に…ごめんなさい。」
小さな少女のような彼女が謝り続ける。
涙が止められないでいる僕の頬に触れた彼女の指はひんやり冷たかった。
この人が悪いわけじゃない…
分かっていながらどこかで許せなかったのかもしれない。
このまま、こんな所で生きているより
いっそ彼女の望むまま…
ポケットに入ったままの薬を握りしめると、その手は汗でじっとり濡れていた。
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