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時間_優也4
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薄い胸を上下させて息を整えている愁。
その両肩を縫い付けるようにベットに押し付けて抱き締める。
強く、強く。隙間のないように体で押さえ込んで。
「ゆうやさ、ゆうや…?」
声が震えている。
怯えさせるつもりなんかないのに。
傷つけたくなんかないのに。
人に優しくするのは難しい。
「愁が泣くと、どうしたらいいかわからなくなるんだ。どうしたらいい。」
腕の中で愁が小さく身じろぐ。
俺の背中にひんやりした手が回された。
「…僕、泣き虫なんですよ。毎回困られると困ります。もし、ここにいてもいいのなら…」
小さく消えそうな声で囁く。
抱き締めて、と。
それが悲しく聞こえて、両腕に力をこめる。
「あったかい」
回された腕も、声も、その全部で俺にしがみついているのに。
どうして俺を頼らない?
「何で受け取らなかった」
「…こんなに、優しくしてもらう理由が、ないから。一時、近くにいられたたけで充分なんです。」
理由?そんなものが必要なのか?
力任せに抱き締めて、顔を苦しそうにしかめる愁を真正面に見据えると居心地悪そうに目を逸らす。
「隣にいてもらいたいって俺の願いは、叶えてくれないのか?理由なんて仕事だって構わない。愁…」
これは俺の願いだ。傍に居て欲しいという願望だ。
ペシッ
額を弾かれて顔を上げると、愁がにこりと微笑んだ。
「そんな顔、優也には似合わない。」
「じゃあ、似合う顔にしてくれよ。」
みっともない。
すがりつくような頼み方。
てっきり納得してくれたものだと思い込んでいたんだ。それなのに…
「アノヒト達とは関わらないでください。人を傷付ける事にためらいのないヒトタチです。それを、言いそびれていたから。」
華奢な腕が首に回されて、ばつが悪そうに微笑む。
「それから、この前してくれた約束を必ず守ってください。」
愁との約束はたった1つ。
いらなくなったら殺して欲しい。
現実的ではない約束。
「ああ。わかってる。他にはないのか?」
俺をじっと見つめながらフルフルと首を振る。
「優也こそ、ないんですか?」
髪をかきあげる仕草を見て、奏介が髪を切ろうと言っていた意味がわかった。
長い前髪で顔を隠しておくのはもったいない。
色素の薄い大きな瞳は人目を惹くし、バランスのいい配置は堅物の重役達や厄介な顧客からの受けもいいだろう。
「優也?」
ぼーっと見惚れていたのを隠そうと咳払いをしてから、丸見えになった額に唇をあてた。
「毎日一緒に眠ってくれるか。何があっても」
「そんな事でいいんですか?」
丸い瞳を更に丸くして聞き返してくる。
「じゃあ敬語やめてもらうか。」
「え?…わかりま、わかった。後は?」
一緒にやりたい事は山ほどあるが、今は一緒にいてくれる事だけで満足だった。
脱ぎ捨てた洋服の下敷きになった紙袋から名刺入れを取り出す。
「連休明けたら一緒に働いてもらう。」
微笑む愁の笑顔が嘘じゃないといい。
そう願った。
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