アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
<5>
-
白々と明ける頃、僕は目を覚ました
けだるい身体が、少し前の時間を思い出させる。
「起きたの?」
僕を背中から抱きかかえていたミサキの声が耳元にする。
「うん。もう一回寝るよ・・・。少し目が覚めただけだから。」
「トモキ?」
ミサキが僕を呼ぶ。
「なに?」
「なんか話してよ。」
僕はミサキの顔を見るために身体を反転させた。またそんなことを言うの?ミサキ
そこにあった黒い瞳はほほ笑んでいた。あんまり優しい笑顔だったから、僕はミサキといて初めて心に触れたような気がする。
「何を聞きたいの?」
「なんで今の仕事を選んだの?」
ミサキは右腕で首を支え、僕を見降ろしている。左腕は肩から腕を優しく撫で上げる。
僕の官能を引き出すだけのミサキしか知らなかったから、なんだか少しくすぐったかったけど、心は穏やかだ。たぶん僕を見るミサキの瞳から見える温かさだろう。
守られているような気がするから自然に素直になってしまう。
「お礼が嬉しかったからかな・・・」
「お礼?」
「僕の母は働いていた。家に落ち着くのは嫌な人だったんだ。でも共働きをするには協力者がいる。
それが僕だった。
僕はね4歳の頃、はじめてお米を研いで炊いたんだよ。」
ミサキはびっくりしたように僕を見る。そうか・・話をすると色々な顔がみられるんだね。
それも悪くない。
「幼稚園から帰ってきたら『ごはんの炊き方』って置手紙があってね。
母の隣で台所にいるのが好きだったから、何度も見たことがあった。
それでそのメモのとおりにご飯を炊いた。本を読むのが好きだったからひらがなは読めたんだ。
イラスト入りの置手紙を何度もみながら頑張った。
帰ってきた母が炊飯器をあけてご飯が炊けているのを見たとき、「ともき、ありがとう」って言ったんだ。
親にほめられることはあっても、お礼を言われることって少ないじゃない?ものすごく嬉しかった。
やってよかったって思えた。」
ミサキの指が頬に触れる。僕の熱を引き出すようなものじゃない、ミサキの心が流れてくるようだ。
「自分でもびっくりするけれど、7歳の頃にはフライをしていたんだよ。母の『置手紙』はどんどんレベルアップしていったから。自分の好きなハンバーグやカレーはその頃には作れるようになっていた。10歳の頃には母が当直のある仕事についたから、その時は僕が夕食をつくった。」
「すごいね、なんだか。」
褒められたのかな、少しくすぐったい。
「だからなんだ、おいしい物を食べて「ありがとう」って言ってもらえるのが嬉しいんだ。僕はありがとうって言われるのが一番うれしい・・・」
ミサキが僕を優しく抱きしめる。
「もう少し寝よう。」
僕はミサキの胸に耳を押しつけて心臓の音を聞く。とても穏やかに繰り返される音を聞いていたら
眠りがやってきた。
僕はミサキに抱きしめられる温かさの中で、まどろむ。
僕達は初めて抱き合ったまま眠った
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 14