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「もしかしたらこないのかと・・・そんな風に思い始めていた・・・」
いつものように床に座っているミサキが僕を見上げて言った
そして床には今までなかったものがある。
リモワのスーツケース。シルバーに光るアルミが僕を打ちのめす
「荷造りは終わったの?」
僕はどうでもいいことを聞いてしまう
「主だったものは送ったんだ。仕事のものと身の回りのものが少し・・だけ」
「そう」
僕はどうしていいかわからなかった。
「何時の飛行機?」
「午後の便だよ・・・」
聞いたところで空港にいけるはずもない。ミサキもはっきり言わない。
僕達は別れを前にして最後の夜だというのに、途方に暮れていた。
ミサキは立ち上がると僕を強く抱きしめた。
「忙しかったの?」
本当に僕がこないかと思った?仕事から戻ってずっと何してたの?僕がこないことを想像してどう思っていたの?
聞けばいいのに僕は聞けなかった。その答えを聞いたら、ミサキを帰したくなってしまう。
そう、僕はミサキを帰したくない・・・。
僕はミサキにしがみついた。
「早くあがれるといいと思ったんだけど、驚くほど忙しかった。おまけに常連さんが長居した。タクシーできたけど、こんな時間に・・・」
「来てくれて、よかった。トモキがこなかったら・・・僕はあのままずっと床に座っていたかもね」
僕のさっきの答えの一部があるミサキの言葉。
どうしようもなくなって、とうとう我慢していた涙が零れた。零れてしまったらとめどもなく流れ出る。
シャツの肩口がどんどん濡れていく。徐々に沁みていく涙は、僕の心であればいいのに。ミサキに沁みこめばいいのに、そうしたら・・・そうしたら・・・
でも気がつく。沁みているのはミサキじゃない、ただのシャツだ。洗ってしまえば僕の涙は消えてしまう。
結局僕達の間には越えられないものが横たわっている・・・。
泣いたところで何も変わらない。なら笑っているほうがマシじゃないか?
僕は少し落ち着きを取り戻した。
「ミサキ、ごめん。あんまり忙しくて疲れていたから、ミサキを見て安心したんだ」
僕の本心でも何でもない言い訳をミサキは黙って聞いている。
「一緒にお風呂にはいろう」
そうだね、僕達に言葉はいらないね。
ミサキが浴室に行ったから、僕は服を脱ぎだした。戻ってきたミサキは僕を見て少し目を細める。
「トモキは最初からそうやって僕を驚かせたね」
ミサキが僕に優しく口づける。
僕はキスを返そうとしたのに唇は離れていった。
「なんで?・・・」
吐息まじりの僕の声はすでに甘い。
「一緒にお風呂にはいりたかったんだ、ずっと。あがったら・・・ね」
僕はミサキの中心を撫で上げた。熱く硬いことに満足してそのまま浴室に向かう。
最後まで身体で僕達は語り合うだろう
そのほうがいい・・・そうだよね、ミサキ
暗闇の中、いったいどれくらいキスをしているんだろう
僕の口なのか、絡めあっている舌がどっちのものなのかわからなくなるほど、執拗な長いキス。
こぼれた唾液があごに伝う。
ミサキが僕の首筋に舌を這わせ始めて、ようやく唇が離れた。
「痕は・・つけないで・・」
一瞬戸惑ったように唇が止まったけれど、また滑りだす。
いつもと違って、刻みつけるような動きに、僕はいらだち始めた。
僕達のSEXはこんなんじゃないよね。安堵や優しさはいらないよ。
僕達は殺し合って死ぬような、そんなSEXをしなくちゃいけない。
今夜は絶対に・・・。
僕は突然身を起して身体を反転させて。ミサキを咥える。
「と・・ともき?」
僕は口を離してミサキの肩を抑え込みながら言う
「僕は優しさより欲しいものがある。ミサキ、あなたが欲しいんだよ。会ったその日に僕にくれたようなミサキが欲しい。優しいミサキは加瀬っぽくて嫌だ」
ミサキの顔が一瞬歪んだあと、妖艶に頬笑みだした。
そう、そうだよミサキ、僕はそれが欲しい・・・。
その後僕達はどれくらい互いを味わい続けただろう?
舌を腕を、足を絡め合う。
互いを握りこんで扱きあい、胸の尖りを舐めあげる。
舌先と喉で互いの味を確かめ、熱さに身震いする。
打ち込まれた楔の熱さに狂喜し、迎いいれる襞の蠢きに背筋をそらす
互いに動き、揺れる、その律動は思考と理性を奪い、単純な生き物に変えていく
互いに自分を与え、相手を貰う
そのやりとりは・・・命のやりとりだ
高い頂上のさらに上を二人で超えて
僕達は一つになった・・・
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