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目覚めたのはお昼過ぎ
太陽の位置でわかる
部屋の中はとても明るかったけど、今の俺には似合わない
夢ならよかったと何度も思うけど、夢ではないんだ
「目が覚めた?」
「うん」
楓の顔を見るのは少し恥ずかしい
「体は大丈夫?」
「平気」
「よかった」
本物の楓だ
いつもテレビで観てる顔だ
ライヴにも何度か行った
CDも全部持ってる
「どうしたの?」
「何でもない・・・俺」
「うん」
「どうしたらいいのかな」
「どうしたいの?」
「罪を犯したんだから償わなければいけない事はわかってる・・・でも・・・怖いんだ」
「正当防衛かも知れないでしょ?」
「でも、俺は逃げたんだ」
「死ぬつもりだったんでしょ?」
「うん」
「なら翔は昨日死んだんだ」
「えっ?」
「俺と翔との関連性は何も無いし、ここで暮らせばいい」
「でも」
「俺も当分仕事はしないから傍にいるよ」
「いいのかな・・・ホントにそれでいいのかな」
楓はしばらく黙り込んでいた
そして俺を見つめた
「俺はね、翔を助けて話も聞いた・・・でもその翔をかくまってここにいて欲しいと思っている時点で同罪だよ・・・翔と離れたくないんだ・・・だからここにいて欲しい」
「楓」
「罪なら俺だって数え切れないほど犯しているんだよ」
「えっ?」
「だから嫌な事は忘れて一緒に暮らそう」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがとう、楓っ!」
泣きながら楓の胸の中に飛び込んだ
昨日より安心出来る胸の中
明日はもっと安心出来るのだろうか
「じゃ、朝食を済ませたら買い物に行こうか」
「でも」
「大丈夫だよ、まだニュースでそれらしい事件は無かった」
「うん」
でも不安で不安で・・・楓には悪いけどこの不安は消えない
「大丈夫だから」
「うん」
「食べよう」
「わかった」
まともに朝食を食べたのは久しぶりだった
いつもお腹を空かせていたしね
「どうかな?」
「うん、美味しいよ」
「よかった」
でも、上手く笑えない
どうしても顔が引き攣ってしまう
「無理して笑わなくてもいいから」
「ごめん」
いつまでこんな気持ちのまま生きて行かなければいけないんだろ
俺に未来なんかないんだ
すごく苦しいよ
楓と知り合わなければ今頃死んでいたのに
知り合ってしまったから今度は別れるのが辛いよ
「そろそろ行こうか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫、帽子を」
「ありがとう」
渡された帽子を深くかぶり、部屋を出た
エレベーターに乗って初めてマンションだと気付いた
「車は地下だから」
「うん」
地下と聞いただけで安心する
明るい場所は怖い
そのまま地下の駐車場に向かい、車に乗った
地下から外に出るのが怖かった
もし誰かに見られていたら・・・
「大丈夫、そんなに拳を握り締めないの」
そう言いながら優しく手を繋いでくれた
いつもならただの風景
でも、今は警察やパトカーを見る度に俯いてしまう
「知り合いの店で買おう」
「うん」
店に着き、楓が言った
「俺の好みでいいかな?」
「えっ?」
「外に出たくないでしょ?」
「うん」
「サイズならわかるから待っててね」
「わかった」
楓が店の中に入り、俺は車の中で待つ事にした
5分、10分・・・とても長く感じた
「お待たせ」
「ううん」
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
楓は大きな荷物をバックシートに置いて車を走らせた
「翔に似合いそうな服ばかりだったから買い込んじゃった」
「ありがとう」
死体はまだあのままだろうか
それとも誰かが見つけてしまっただろうか
「着いたよ」
「うん」
車を降り、部屋まで戻って来た
やはりここが一番安心する
「疲れた?」
「楓こそ」
「俺は平気」
「そか」
「おいで」
「うん」
ソファーに腰掛けた楓の隣に座り、抱きしめられた
「どうすれば翔は安心して眠れるんだろうね」
「・・・・・・・・・・・・・・俺」
「自首はダメ」
「うん」
殺人罪は懲役何年なんだろう
俺は今17だから、10年?20年?それとも死刑?
「翔はどの曲が好き?」
「全部好きだけど、月夜の花が一番好き」
「そう」
楓は立ち上がり、ギターを持って来た
そして俺の好きな曲を弾いてくれた
「俺、すごく贅沢だね」
「翔だからだよ」
「うん」
とても悲しい曲
胸が張り裂けそう
思わず涙を拭い、俯いた
「翔」
「うん」
「逃げようか」
「えっ?」
「海外へ」
「無理だよ、パスポートも無いし」
「翔の悲しい顔はみたくないんだ・・・大丈夫、心配しないで」
「でも」
「誰も知らないところまで行けば翔も安心出来るでしょ?」
確かに世界は広い
日本に比べれば逃げられるかも知れない
でも、本当にそれでいいのかな
本当にそれで笑えるのかな
「俺は翔と一緒にいたい、だからどんな事でもやるよ」
「ダメだよ・・・楓はミュージシャンなんだから手を汚してはダメ」
「かまわないよ、翔の為ならこんな手いくらでも汚しても構わない」
「楓」
もうだめだ
ここにいては楓に迷惑がかかってしまう
楓には未来があるんだ
それを俺が壊してはいけないだ
「ねぇ楓」
「どうしたの?」
「俺にもギター教えてよ」
「いいよ」
大切なギターを俺に渡し、楓の膝の上で丁寧に教えてもらった
「難しいね」
「そうだね」
「弦を指で押さえるのに一苦労」
「最初はそうだね」
「うん」
「少し休憩しようか」
「わかった」
楓はキッチンに向かい、紅茶を煎れていた
俺、どうしようもなく楓が好きみたい
ファンだったからじゃなくて、素の楓に惹かれてしまった・・・だから
「どうぞ」
「ありがとう」
ガラスのティーポットとガラスのカップ
注がれるミントの入ったお茶
「落ち着くよ」
「うん」
楓の煎れてくれたお茶はほんのりミントの香りがした
とても美味しいお茶だった
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