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始業して間も無くのオフィスの喧騒の中、吉川深幸はソフトを立ち上げ、伝票の入力を始める。
黙々と仕事をこなす、細身なスーツの後姿に声が掛かった。
「吉川さん、出張費の書類持って来ました。」
お願いしますと言いながら、今年入社して営業に配属された七瀬大知が書類を手渡す。
「分かりました。」
深幸が受け取ると、笑顔で聞いてくる。
「吉川さんって、俺とタメなんでしょう?この前、飲み会の席でちらっと聞いたんで。」
「ええ、入社は早いですが同い年です。」
深幸は再びキーボードを叩きながら、素っ気なく返す。
そんな態度にもめげずに、深幸に比べれば大柄な身体を屈めた大知はまだ話しかけてくる。
「何年目ですか?」
「……四年目です。」
諦めて、キーボードを叩く手を止め横を向いた。黒い太フレームの眼鏡の奥の目が眇められる。決して好意的ではない。にもかかわらず大知は、やっとこっちをむいてくれた事に更に笑顔を深めた。
「"みゆき"って読むんだ。男性では初めて聞いた…。いい名前だなぁ。」
途端にくだけた口調になった大知の視線は、首から提げた社員証にある。
「……急ぎの仕事があるので。」
早く何処かへ行ってくれと、言外に含ませる。それも意に介さず、大知は自分の社員証をかざして続けた。
「俺は"だいち"。出来れば下の名前を呼んでほしいな。タメだし。」
「……七瀬さん。もういいですか、」
同い年ではあるが、大知は入社してまだ半年であり、10月に中途採用で入社した深幸は丁度四年目に突入したところだ。つまり、先輩である。
大知の馴れ馴れしい口調に若干の苛つきを感じ、話は終わりとばかりにパソコンに向かう。
「じゃあ、深幸。今度飲み行こうな。」
そう言ってやっと離れる。深幸は今の言葉を聞かなかった事にして、再び仕事に集中した。
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