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京都にて / お箸屋さん
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「コーヒーは飲むけど、朝飯はいいかな。」
「コーヒーにしましょう。」
ホテルの向かい側にあったスタバでまったりコーヒー。今日は箸屋さんに行く以外これといって予定は組んでいない。行ってみてから考えてもいいだろう。予定がないっていうのは自由になんでもできるってことだしね。ただ時間が足りるかどうかという問題はある。
明日は10:00台の飛行機だからバスに乗るなら7:00台、JRなら8:00台。明日何かをする時間はない。こう考えると二泊三日とはいえ、移動にサンドイッチされた三日間だ。1時間に何本も飛んでいる東京ならもう少し余裕のある旅ができるのかもしれないな~。
ハルはバス路線図とスマホを交互に見ながら一生懸命だ。なんだかさ~かわいさ倍増に見えるの俺だけ?いちいちかわいいんだけど!京都マジック?旅マジック?
「京都駅に行くか、昨日歩いた河原町からバスに乗るみたいです。」
「京都駅まで何駅かあったよな。」
「ですね。駅からだと26系統で四条河原町だと10系統。どっちも40分くらいかかります。」
「まじで?おれHPで商品は結構見たけどアクセス全然調べていなかった。」
ハルはぶうう~とポーズだけの膨れた顔をして見せる。だからね、かわいいだけだから。
「僕が調べるっていう完全お任せ状態ですね。」
「おう!ハルに任せた。」
「じゃあ、四条河原町までいって10系統のバスに乗りましょう。」
「なんてとこで降りるの?」
「けいふくみょうしんじ?きょうふくかな。」
「どれ、どこよ。」
ハルの指さすバス停は「京福妙心寺」の文字。んまあ・・・どっちでもいいよ。有難そうな名前のバス停だし。
しかしこの京都のバス。網羅っぷりがすごい。乗り継ぎも可能で複数の系統があちこちの名所をカバーしている。おまけにバスの片道が230円で、一日乗り放題券が500円!太っ腹だよね~京都市。それだけ乗降者がいてペイできるってことなんだろうな。
「札幌でもバス乗り放題とかあんの?」
「どうなんでしょう?調べたこともありません。地下鉄はあったかな。ドニチカ切符は買った事ありますよ。」
「ドニチカ?」
「土日曜祝日が500円だったかな、地下鉄乗り放題です。」
「ほおお。」
「新札幌とか真駒内とか普段行かない遠い駅にいくにはお得ですけどね。そして使わなくなったドニチカを券売機に置くんですよ。よかったら使ってねの意味で。」
「へえ~会費制の結婚式に通じるものがあるな?」
「はあ?」
「助け合おうよ~な感じ、まあ、この話はいいや。でゲツキン切符はないの?」
「あるのかもしれないですけど。バスは厳しそうですよ。ダイヤが乱れますから。」
夏はともかく冬の市内。車線は1車線雪山で潰れるからバスも乗用車もトラックまで入り乱れて大変なことになる。冬の札幌をバスで巡っていたら効率が悪くて仕方がない。辿り着くまで予想以上の時間がかかり、戻ってくる時間を考えたら無理すぎる。
なるほどね~世界に誇る京都、そして雪が積もらないってことがこのバスシステムを成立させているんだな。
・・・なに俺真面目なこと考えてんだ。
「バス停降りたらグーグル先生にお供してもらいましょう。」
くそっ!かわいいじゃねえか!
思わずデコピンをくらわしてしまい、ハルにややマジで怒られた。
<<バスにゆられて40分後
「ミネさん、こっちみたいですよ。」
「ハル~その前になんか食わない?」
「えええ!朝ごはんいらないって言ったのミネさんですよ。」
「そうなんだけど、なんかこういう店いいじゃない。」
そば・うどんの店と定食と一品料理の店がある。昼にまだ少し早いから空いているだろうし、市内中心部じゃない場所にあるこの辺りの人達に馴染みの店って気になるよね。うん、気になる!
「だって、箸はもうすぐなんだろ?」
「・・・ええ、です。」
「じゃあいこうぜ。んでビール飲む!」
ハルの顔がキラっと光った。コクコク頷いているのでOKが貰えそう。
「なんか旅行っぽいですね、夜じゃない時間のビール。」
「だろ~~。じゃあ決まり!」
ということで入った店には先客が一人。カウンターと座敷に2本テーブルが並んでいる、こじんまりとした店だった。
メニューを広げる。ご丁寧に1枚ずつわかれていて「定食」「そば・うどん」「一品料理」「お飲み物」
壁にはホワイトボードがぶら下がり、「本日のおすすめ」があった。
「レンコンはさみ揚げ美味しそうですね。」
ハル、ナイスセレクト。
「うん、決まり。すいません~ビール2つとレンコンはさみ揚げください。」
お店の男性は黒ぶち眼鏡でスキンヘッド、年齢不詳・・・。
「おおきに、ビール先でよろしいですか?」
おおお~関西っぽいね、言葉が。思えばホテルのフロントもスタバの人も普通に標準語だったから、ここが西だってことを忘れてしまっていたよ。
「ビールお願いします!」
一品料理をさんざん眺めて選んだのは「九条ネギたっぷり揚げ出し豆腐。」これ絶対美味しいでしょ。でしょ?札幌に九条ネギは売っていない。百貨店の地下にならあるかもしれんが、スーパーに置いているようなネギではない。これを食べずして京都に来た意味があるか!
「僕も食べたいです。だから二つ頼みましょう。」
男二人でシェアしたって誰も何も言わないぜ?と言おうとしたら、食べる気まんまんのハルの顔。俺は噴き出してしまった。正直宣言をしたけれど、時々ションボリしたりするからハルには言葉が必要だ。
でも今は取り越し苦労にすぎず一安心。
ビールで乾杯してゴクリ。
うっひゃ~、やっぱり美味しいよね!こういうビールは!
スキンヘッドさんが料理するのか思いきや、厨房にいるおばちゃんがえらいデカイ鼻歌をふんふん言わせながら料理していた。
ハルの耳もとでコソコソ言う。
「絶対飯塚とサトルはこういうとこ入らないよな。」
「ですね。でも朝から飲んでますよ、絶対です。」
一瞬トアは何をしているのかな?と浮かんだけれど・・・シャットダウン!トアは大人だ、たぶんどうにかしている・・・たぶん。
レンコンはさみ揚げサクサクで美味しかった。天ぷら的衣はなくほぼ素揚げ。俺としてはもう少しレンコンが厚いほうが嬉しいな。
そしてやってきました揚げ出しは美味しかった。豆腐も出汁も、そして九条ネギも!
ビール2杯と料理を平らげて、すっかりありがたい気分の二人。40分以上もバスに乗ってきた目的を忘れてしまいそうになる。
昼ビールは人間をダメにするな~~~気持ちいいけど。
「おおきに~~」と声をかけられつつお店をでる。
「ほら!入ってよかっただろ?」
「ですね!九条ネギ美味しかった・・・スーパーに売ってますかね。買って帰ろうかな。」
「飛行機の中ネギ臭になるんじゃないの?大丈夫かな。」
「袋にグルグルするとか対策を考えます。では行きますよ!」
目的のお箸屋さんはすぐに見つかった。こじんまりとしていて大きな店ではない。
中に先客はいなかった。
ドアを開けるときに普通に表札がかかっていて、家族でやっている店かもな~なんて思ったり。
「いらっしゃいませ。」
店の奥には男性が一人、カウンターの向こうに座りどうやら作業中のご様子。あら、この人が一人で作ってるのか・・・たしか一人でやっているのでお届けまで時間がかかりますとか・・・なんとかHPにあったな。
テーブルの上に3種類の長さの箸が並んでいる。そしてその箸先の細さに嬉しくなった。そうそう!これこれ、この細さなのよ!俺が求めている物は。
壁には色々な材質の箸が並んでいる。だいたい7500円~な感じ。たぶん奥に行けば行くほど高くなっているはず。横の扉から、かわいいおばさんが出てきた。
「いらっしゃいませ。」
奥で箸を作っている人に顔が似ているから親子だね、きっと。
「うちの箸はこの細さなんですよ。」
「いやもう、ずっと探していた形です。」
「そうですか。ちょっと持ってみてください。」
箸は六角形、四角、流線形、小判などなど。実際持ってみたら全然馴染み方が違う。
「全然違いますね。」
「そうなんです。これはお客さんには少し短いですね。少々お待ちを。」
ガサガサ何かをほどいたあと箸を一膳渡してくれた。
「これ今日発送する箸です。お客様と同じくらいの背格好の方なのでしっくりくると思いますよ。」
あら、すいませんね。俺と背格好が似ております様。そして持ってみてびっくり。たった何センチの差だろうに、全然感触が違う。
「こちらさんは、きっとこのサイズがぴったりですよ。」
ハルが渡されたのは俺より当然短い。
「僕は四角がしっくりきます。」
「ほおお、俺は六角形。」
「丸いお箸が多いですからね、菜箸も丸ですから。」
あ~なるほどね、言われてみれば俺が持つ箸は丸が多い、仕事柄。でも小判はイマイチだし四角は角が気になった。六角形の馴染み感がすごくて、もう俺は六角形に決めた。絶対コレ!
「あとは材質ですね、ちなみに一番軽いのは竹です。」
持ったハルがびっくり顔。うわ~なにこれ、めっちゃ軽い。嘘みたい。
「軽いですね・・・ちょっとびっくりしました。」
奥深いな・・・箸。でも俺の好みとしては重さが欲しい。あとちょっと硬さかな。
「僕はもう少し重いほうがいいですね。」
「一番重いのはこの辺りです。」
いよいよ壁面箸コーナー。紫の箸に目が留まる。綺麗で深い紫色(村崎なだけに?・・・ごめんなさい)
「青いお箸はないのですね。」
ハルはもう青いシルバー系の持っているでしょうに。
奥で作業中の方が微笑みながら言った。
「そうですね。青い木は生えとらんもんで。」
「ああ~そうですね。じゃあこれ全部木の自然の色ですか?」
「はい、木の持つ色味です。」
ハルは端から箸を吟味しだした。そして一番奥のキャプションを見てギョッとしている。俺の目にも見えるよ、4万9千なにがしな感じよね。さすがにそれは無理だ。
「この紫の持ってみていいですか?」
やっぱり持ってみないとね。この店にきてオーダーの意味がわかって滅茶滅茶楽しくなってきた俺です。
「どうぞ。」
う~~~ん。悪くはないけど・・・もうちょい重いほうがいいかな。
「軽い?」
よくお分かりで・・・。
「こちらはどうかしら。黒檀です。一番重いですよ。」
へえ。ツヤツヤの肌に僅かトーンの違う木目が一筋。
「一番固くて重い木材です。ピアノの黒鍵に使われています。丈夫じゃないと鍵盤になりませんからね。ピアノされていた女性にも意外と人気なんですよ。」
「へえ~女性が、黒なのに。」
「好みですからね。」
この黒檀がいい。紫のはやっぱり少し軽いしね。ハルは俺から黒檀を受け取ったあと「う~ん」と言った。そりゃあね、別にお揃いにする必要もないし、自分が一番コレって思うものを選ぶべきだ。
「僕はこれがいいかな。」
ハルが手にしたのは「紫鉄刀木(むらさきたがやさん)」という箸。それも結構気にはなった、でもそんな紫じゃないのよね。
「あ~こちらは使っていくうちに色が変わっていくのが面白いですよ。」
ハルが敏感に反応した。出ました!経年変化!お茶碗と同じじゃんか。
「黄金色に細かい木目の木材が、時間の経過と共に深い紫色を帯び面に変化していきます。それなりに固く重いです。」
「これに決めます!」
「ありがとうございます。今だとお届けは5月になりますね。」
そのあとは会計を済ませ、注文書に記入をする。すごいねオーダー。送料と合わせたら9000円に少しお釣りがくるくらい。でもやっぱり「食べる」ことを仕事にしている俺としては大事にしたい。でもほんと、この箸先…絶妙に好みだわ。
「あらまあ、札幌ですか。」
「ええ、遠くから来ました。」
「それはおおきに。」
でも全然ビックリした顔をしていない所をみると、全国各地からこの箸屋を訪れる人がいるのだろう。奥でもくもくと作業している息子さんも札幌に反応しなかったしね。それよりなにより、届け先が同じなのに一言も触れないおばさんが素敵だと思う。「ご兄弟ですか?」「あら、お住まい同じですか。」なんて聞かれたらどう言おうと考えていたから。(ちょっとビールに毒されているけど。)
その時ハルを安心させてやりたいから「ええ、一緒の住まいです。」くらいでいいかと考えていた。
そしてまた取り越し苦労に終わった。
色々気にしすぎだよな・・・ここは地元じゃないわけだ。正直に言ったところで二度と会わないかもしれないわけだ。なんて言いつつ、また来てしまうかも・・・。
「ここでお渡しできればいいのですが。」
すまなそうな息子さん。
「急ぐ買い物でもないので、納得したものを作ってくれたほうがいいです。」
「なんか作られはる方ですか?」
「あ~料理です。和食じゃないですが。」
「そうでしたか、お箸で味が変わります。それは自信を持って言えますから。」
「道具によって味が変わるのはわかっているのですが、お客さんにこのお箸で食べていくわけにもいきませんしね。」
「でも知っているだけで全然違うと思いませんか?」
「ええ、とても。」
俺とハルはまた「おおきに~」の声とともに店をでた。
「なんかすごかったです。確かにお箸に1万円近くって人によってはありえない価格かもしれないです。でも・・・ここにこれてよかったです。いいお買い物したって思えました。自分の手になじむってこういうことを言うんですね・・・びっくりです。」
「だから道具はキリがない。包丁、鍋、器・・・料理をとりまく様々な物。」
「僕・・・ミネさんに逢わなかったらこんな経験できませんでした。ありがとうござい・・・ます。なんか嬉しいな、きっと僕くらいの年齢でお箸オーダーしている人少ないですよね?札幌にいないかもしれない!ミネさんに貰ったお箸、あれはお店に持って行こうかな。」
「ええ~払下げ?」
「違いますよ。お家でお茶碗とこの箸が育つのを楽しみに待ちます。その間使わないのはもったいないので、お店の賄いはあのかっこいい箸を使います。おうちもSABUROも素敵箸です!」
・・・素直でかわいいよなって思う。
やっぱりハルはハルだ。
「んじゃ~次どこ行こうか?」
フフンと笑うハル。
「最寄りのバス停がわかったので、どこかに入ってバス路線図と睨めっこしましょう。もちろんビールを飲みながら。」
「おお!そうこなくっちゃ!」
「なんとなく、この坂を登って行ったらお店がありそうって感じます。」
「じゃあ、ハルの直感を信じますか!」
なんだかんだで俺達の京都は今日一日。もう半分終わってしまった。ここからどこに行って何をみるのか・・・決まっていないからこそワクワクする。
俺とハルにはこれがちょうどいい。
残りを楽しむことにしよう!
ハルと一緒に!
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